疾走!千マイル急行

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈上〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈上〉 (ソノラマ文庫)

THE THOUSAND MILES EXPRESS ACR−千マイル急行。西大陸の心臓、知恵と力の都と名高い都市エイヴァリーが誇る国際寝台列車。強力な蒸気機関、贅を尽くした内装、考え得る中で最高のサービス。『車輪と馬首』の紋章を掲げ、国境を越えて走るこの力強く豪奢な急行列車は、大陸中にその名を轟かせている。快適で心躍る旅を約束するTMEのはずであったが、道中で謎の車両が増結されてから、旅の様相が変化しはじめ・・・。

小川一水「疾走!千マイル特急(上)(下)」読了。

小川一水はヘリコプターや潜水艇といった乗り物と、それを操るプロ達を扱った本をいくつか出しているが、今作はこうした乗り物シリーズの新作である。お題は「蒸気機関車」。架空の世界の、架空の大陸を舞台として、重たい鉄の塊が蒸気機関の雄叫びも勇ましく爆走する。もっとも、蒸気機関車は現代の電車からすれば非常にメンテナンスが面倒で効率の悪い、まぁ鈍くさい乗り物なのだが、そのへんの描写も隠すことなくしっかり書いてあって、その手の係りっぷりがまた愛着を増すというか、威厳を増すというか。

TMEがその品格にふさわしい旅を提供できたのは最初のうちだけで、次から次へとやっかいな問題が起こって、事態はどんどん大事になってしまいには民族滅亡の瀬戸際までになり、乗客や乗務員たちもどんどん追いつめられていく。しかし、そんな中でも、名所巡り的な描写を忘れない。なんといっても大陸一つを横切る旅なので、景観や触れる文化の変化だけでも相当なものである。列車での旅ってのはそういうのに触れられることが醍醐味だろうし、だからこそその味を残しているのだろう。いや、それはそれは真剣に旅してますよ?

やっぱ職業人たちのプロ意識に胸が熱くなってしまうね!TMEは、確かに機械部分も調度品も内装も豪華極まりないが、これを大陸最高の列車にしているのは、これに携わる乗務員たちの技量とプロ意識なのですよ!自分の仕事に誇りと信念を持って、お客様に最高のもてなしを。追いつめられて超過勤務状態になってもくじけない。お客様が、あるときふと、「あ、そういえばあのときも助けてくれていたのかな?」と思い出すぐらいの、さりげなく、しかし大事なサービス。いいじゃないか。かっこいいじゃないですか。相変わらずこの手の描写がうまいね。

エンディングは、ちょっとパターン化してきているか?でも、感動を呼ぶ定番のやり方だし、王道を行ってると考えられるか。宇宙に出る話じゃないので、それだけでテンションが落ちてしまうところがあるが(えー)、熱くなれる箇所がいくつかあり、すごくとは言わないまでも普通に良書。軽〜くページをパラパラとめくっていたと思ったら、グイグイと引き込まれて、いつの間にか読み終えてしまった。おかげで翌朝の睡眠不足が約束されている。

でも、どこかの書評サイトで見てそれもそうだなぁ、と思ったのだが・・・タイトルもうちょっと考えたほうがいいかもね、小川一水氏。俺は彼の本は無条件で購入するのでちっとも気にならなかったが、確かに表紙買いする人はなかなか手に取ってくれないと思う。「太陽の簒奪者」とか「ウロボロスの波動」なんかは、予備知識無しに表紙見て、なんとなく興味持っちゃったもんだ。

最後に一言。フローリー、俺も欲しい。畜生、まんまと思惑にはめられちまったのか、俺は?!