Octopus!: The Most Mysterious Creature in the Sea
タコの本である。とにかくタコについて詳しく書いてある。例えば、ご存じであろうか…タコは、腕の吸盤で味を感じ取れるらしいぜ。
Octopus!: The Most Mysterious Creature in the Sea Katherine Harmon Courage Current 2013-10-31 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
こちらが和訳本。ニッチすぎてまず出ないと思っていた。
タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物 (ヒストリカル・スタディーズ10) キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子 太田出版 2014-04-17 売り上げランキング : 150990 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
The octopus is a tough beast to grasp. With eight arms, three hearts, camouflaging skin, and a disarmingly sentient look in its eyes, how could it appear anything but utterly alien?
購入したときは、おそらくそうしたタコの驚異の生態についていろいろ書かれているのだろう、と思っていた。果たしてその通りだったのであるが、それだけではなく、人とタコの関わりについてもかなりのページを割いている。タコはどこでどのように水揚げされるのか、どれだけの量が食べられているのか、どのような料理法があるのか、医学や工学分野への応用、神話*1、文学、芸術などでどのように表現されているか、etc…*2
とはいえ、やはり面白かったのは、タコの驚くべき能力の数々である。せっかく読んだので、いくつか蘊蓄を披露したい。
驚異のカモフラージュ能力
タコのカモフラージュ能力はすごい。あまりにすごすぎて、陸生の脊椎動物のそれなどもはや宴会芸程度にしか見えなくなる。そのすごさは口(文)では説明しきれないので、有名な動画を引用したい。
ただ色を合わせるだけでなく、体表面に微妙な凹凸を作って、質感まで表現している。しかもこの複雑な変身を瞬く間にやってのける。
あまりに巧みな隠れっぷりで、これに人が気づくのはほぼ不可能である。本書には、飼い始めて間もないタコがある日水槽から忽然と姿を消し、飼い主は慌てふためくのだが、数日後に実は水槽内でカモフラージュしていただけだったことがわかる、という逸話が載っている*3。
さらに驚くべきは、タコはどうやら色盲らしい、ということだ。なぜ色がわからないのに、ここまで見事にカモフラージュできるのか。なにかしらの手段で色を感知しているはずだ、と考えて調べまくった結果、どうやら皮膚に光に反応するタンパク質があるらしいことがわかった。つまり、タコは目だけでなく皮膚でもモノを見ている可能性がある。しかし、その皮膚もまた色盲であるらしく、いまだ色の問題は解決されていない。
高い知性
タコは無脊椎動物のなかではずば抜けて高い知性を誇る。
例えば、ふた付きのビンに食べ物を入れて与えると、最初こそ時間をかけるものの結局は巧みに空けてしまい、二回目以降は学習してしまうらしくあっという間に食事にありついてしまう。同門の生き物が貝やナメクジであることを考えると、規格外な知性である。
また、水槽の外にいる人間を見分けることができるようだ。なんでも、自分に嫌がらせをした人間を覚えていて、翌日その人が現れたときに水槽のふたの隙間から水をぶっかけて復讐を果たしたのだとか。我々人間は賢いつもりでいるが、はたして他の種の個体を的確に見分けることなどそうそうできるだろうか…?
さらに大変好奇心が旺盛であるらしく、いろいろなものに興味を示す。次の動画など、実にユーモラスである。
ダイバーのビデオカメラに興味津々で、これを奪いとり、なで回している。その後、追いついたダイバーの水中銃に興味を示し、そちらにへばりついて離れない。この調子で水槽中のいろんな器具を壊してしまうので、研究者たちはいつも苦労させられるらしい。
腕
タコといえば、8本の腕である。*4
彼らの腕は筋肉の塊で、強い力を保持している。関節など無く自由自在に動き、通常の2倍程度の長さまで伸ばせる。吸盤の吸引力も相当なもので、彼らに巻き付かれたら体中に吸盤の跡が残ることを覚悟しなければならない。さらに感覚器も充実していて、触感は当然ながら味まで感じ取れるという。そのうえ食べるとおいしい。恐るべき万能兵器である。
ところで、我々人間の感覚で考えると、体の動きは全て脳で制御していると思いがちである。しかし、タコの脳は8本もの腕を自在に操るには小さすぎる。それではいったいどうやってあんなに器用に腕を動かしているのかというと、どうやらそれぞれの腕が小さな脳としての役割を持っていて、半ば自律的に動いているらしい。しかも、必要に応じて複数の腕での協調作業すらやってのける。この見事な仕組みはロボット工学分野から熱いまなざしを向けられている。
とはいえ、やはり負担ではあるらしい。そのため、腕に数カ所だけ動く場所、つまり「肘」を設け、他は動かないよう固定する、つまり人間の腕のように振る舞わせるという行為が観察されている。動作箇所を制限すれば、神経への負担は軽くなる。器用なものである。
極端に短い寿命
このような能力を持っていながら、タコの寿命はいいところで数年であるそうだ。たった数年で、人間で言えば赤子がタンカーになるほどの急激な成長を果たし、交尾し、その後まもなく死ぬ。
そのメカニズムについては、遺伝子に自滅プログラムが仕込まれているのでは、などいろいろな説があるようである。だが、そもそもなぜそんなに生き急ぐ必要があるのか、という点はよくわかっていないらしい。
…だいぶ書いてしまった。蘊蓄を語るのは楽しい。
しかし、これでもまだ一部である。他にも、タコは「遊ぶ」ことがあるらしいとか、道具使えるんだぜとか、いろいろなことが書いてあって、大変読み応えのある本であった。今度水族館に行く機会があったら、真っ先にタコの元に駆けつけ、彼らを見つめながらその素晴らしい性質の数々に思いを馳せることであろう。
惜しむべくは…本書が日本語訳されることはまずないだろうなぁ、ということだろうか。