天涯の砦
- 作者: 小川一水
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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小川一水の長編『天涯の砦』が発売された!長編は『疾走!千マイル急行』以来か。いやー、心待ちにしていましたよ。さくっと二日間で読了。今回の題材は、宇宙空間でのサバイバルだ。
宇宙空間に浮かぶ軌道複合体「望天」で大規模な事故が発生。この事故で多くの人名が失われたが、この破壊により本体から分断されたある区画には、不幸中の幸いと言うべきか10人の生き残りがいた。周囲は真空の宇宙空間、空気も食料も限りがある、何より自分たちの命を預けている「望天」の残骸は事故の影響でガタガタである。隔壁や真空で分断されている彼らは、ダクト越しに連絡を取り合い、この絶望的な状況からの生還を目指す。
blogでも執筆の苦戦について漏らしていたし、あとがきでも「いやもう、くたびれた」と苦労を覗かせる。極限状況に立ち向かう話はこれまで何度も書いているわけだが、それらがひたすら前向きだったのと異なり、今回はシビアな内容になっている。
生き残った人々同士で奇妙な友情が生まれたりすることも無く、むしろ軋轢ばかりを生む。さらに極限に追い込まれた人間の醜さも出てくるものだから、読んでいて胃がキリキリと痛んでくるような感じがした。読み終えてみると、そんな救いのない話じゃないのだけれど。
佳作かな。話的に心が躍るような内容でないのはまぁ当然なのだが、おそらくこちらを出したかったのだろう、宇宙空間の恐ろしさの描写もちょっと弱い。空気も案外簡単に入手してるし、水と食料の心配についてはほとんど触れられない。残酷な環境にじわじわと首を絞められていくような状況にならないので、せっかくの仕掛けが生きてないっていうか。むしろ登場人物の屈折ぶりと関係の危うさが目立っていて、これを表現するだけなら別に宇宙空間である必要は無いんじゃねーか、ぐらいに思える。
次に期待。