アイの物語

アイの物語

アイの物語

山本弘の短編集だー!!『まだ見ぬ冬の悲しみも』からあまり経ってないのに、もう次がきたか。

遠い未来、機械に支配された地球。アイビスという女性型アンドロイドに捕らえられた人間・語り部は、彼女(?)から何をされるでもなく、ただ物語を聞かされる。それは、20世紀に書かれた、主に人工知能と仮想現実を題材としたフィクションであった。

という形で、山本弘がこれまで書いてきた短編5編と、書き下ろし2編の計7編が綴られる。

『ときめきの仮想空間』のタイトルを見たときは、驚愕のあまり飛び上がったね。まさか、この短編を再び目にする機会が訪れようとは。俺、読んでたんだよ、今は亡き『ゲームクエスト』誌に掲載されたときに!1997年5月号!話自体は、仮想現実世界「MUGENネット」を舞台にしたこっぱずかしい恋愛小説なんだが、オチの部分が結構好き。そうか、バーチャルリアリティにはこういう可能性もあるんだなぁ、と感心した若きあの頃。

ライトノベル方面で発表されたものが半数を占めるので、読みやすいが、軽くてちょっと物足りないのが前半。しかし、これがあとの短編になるほど本格SF化してきて、書き下ろしの2編は絶品なんだわ、これが。

『詩音が来た日』は、高齢化が進み福祉が限界に差し掛かっているところに導入された介護用アンドロイドの精神の成長を描いた話。作業自体はそつなくこなせるものの、「心」の成長がまだ不十分で、老人たちのメンタル面までケアしきれない詩音。しかし、主人公の教育と業務で培ったあらゆる経験により人間への理解を深めていき、遂には人間のような心を持つにいたる・・・ようでは、現代のSFとはいえない!結局人間とは異質な存在である彼女は、人間に対する意外な認識を導き出すのだ。

そして、アイビスが語る7つの短編中、唯一の真実の話『アイの物語』。主にゲームに使われる仮想人格TAI(真のAI)に対する虐待を発端として、TAIたちに人権を認めようとする擁護派と、いつか人間に反逆するのではないかと危険視し排斥しようとする反TAI主義者とで対立が発生、ついにはテロまで発生する。そんな中、TAIたちは争いあう人々に対してある行動を起こす。人工知能に人格を認めるか、という古来からあるネタだが、TAIたちがもつ独自の考え方や文化が面白い(4+6i)。

山本弘は「どれも泣ける話だ」と豪語していたが、この書き下ろし2編については同意しよう。感動的だった!詩音が歌うところなんてもう、ぞわぞわきたよ。あんたはすごい!

それはともかく・・・QXはレンズマンが元ネタってことでQX?