日本以外全部沈没

日本以外全部沈没―パニック短篇集 (角川文庫)

日本以外全部沈没―パニック短篇集 (角川文庫)

筒井康隆が1962〜1976にかけて書いたスラップスティック短編をまとめた『日本以外全部沈没』を読んだ。これを買ったのは、別に大御所の手による本だからではない、完全にこの妙なタイトルに負けたのである。こんなヒネリのないタイトルなのに、見た瞬間「プッ」と吹いてしまいそうな絶妙さ。

表題作『日本以外全部沈没』は、タイトルを見てのとおり、日本SFの金字塔、小松左京日本沈没』のパロディである。今年は『日本沈没』が映画化されるということで、書店には新訳版が平積みされているが、それにあわせたか今回まさかの映画化を果たしたらしい

内容は、これまたタイトルどおり。地殻変動により日本を除くほぼすべての大陸が海中に没してしまい、世界各国の人々が日本に避難してくる、というもの。限りある陸地の所有者ということで、日本人は特権階級となり、各国首脳は日本の首相のご機嫌を伺う毎日になってしまうのだ。書かれた当時の世界の著名人がぞろぞろ出演し、それぞれ愉快な落ちぶれっぷりを披露してくれる。問題は、俺が生まれる前に書かれた本なので、解説があるとはいえ出演者たちが何者なのかよくわからん、という点である。そのせいで、いまいち笑いどころがわからない。

面白かったのは、むしろ他の短編か。

『あるいは酒でいっぱいの海』は、どこかで聞いた語感だなぁ、と思っていたが、エイヴラム・デイヴィッドスン『あるいは牡蠣でいっぱいの海』からとったものらしい。『牡蠣で〜』のほうも、大変なバカSFらしく、山本弘が『トンデモ本? 違う、SFだ!』でも触れていた。が、『酒で〜』も何考えてるんだお前は、と突っ込みたくなるショート・ショート。タイトルそのまんまの内容である。

あとは、ど偉い博士が物理・工学・などなどあらゆる角度からの分析を行い、パチンコの攻略をはかる『パチンコ必勝原理』、農協のお年寄りたちが月面旅行へと乗り出し、好き勝手に暴れまわる『農協月へ行く』が面白かったかな。後者は農協ツアーってのが元ネタらしいのだが、なんだそりゃ?

まぁまぁ、といった感じ。突き抜けて面白いとは思わない。当時の世相を反映しているようなので、そのへんの時代の人ならば、懐かしさがあるのかもしれん。