Nippon2007 四日目
ワールドコンも終盤である。今日は星雲賞の授賞式があるな。楽しみだ。それにしても、日に日に文字数が多くなっていくな・・・。
ハードSFの楽しみ
日本を代表するハードSF作家達が一堂に会して、我々にハードSFの面白さを教えてくれるという企画。見よ、この豪華メンバーを。
括弧の中は代表作、というか俺が読んだことがある本。どれも最高に面白いです。みなさんお世話になっております。
一人一人にプレゼンテーションをしてもらう、ということで、最初にじゃんけんで順番決め(笑)
一人目:小林泰三
グロい、キモい描写が際だつ優れた"イヤSF"を多数輩出するSF作家、小林泰三氏。彼が用意した、他の作家さんに「これを最初にもってきていいの?」と言わしめたプレゼン、どういう内容なのか・・・。
・・・えー、つまり、SF氷河期まっただ中にSF作家になろうとした小林氏は、「非SFのフリをしてSFを書く」という荒技でデビューを果たしたのだ。ここでクラークの第三法則を持ち出すとは(笑)
しかし、その小林メソッドとでも言うべき手段の有効性は、すでに実証されている。というのも、この手法で、小林氏は実際に『玩具修理者』でデビューを果たし、映画化まで果たし、しまいには・・・。
人生の勝ち組まで上り詰めているのだから。
とりあえず、宇宙さえ出さなければ、編集も読者も非SFに誤認してくれるらしい(笑)SFはダメだ、と言われた作家さんは、小林メソッドでSFを表現すると成功するかもしれないな。
二人目:野尻抱介
スライドの表紙を撮り損ねてしまったのだが、今年の星雲賞にもノミネートされた短編『大風呂敷と蜘蛛の糸』の設定について話そうというもの。上のスライドは、劇中に登場する"北海道大学・成層圏プラットフォーム"と、"大風呂敷1号"のデザイン画である。
この短編で扱ったあらゆる設定やSF考証について、なぜそうなったのかを詳しく説明してくれた。実に興味深かったのだが、これはあらかじめ元ネタの短編を読んでおかないとよくわからないと思うので、ここでは詳しく書かない。
あと、"ロケットガール養成講座"の紹介も。
で、どうもその講座に出た娘がこの場に来ているというので、紹介することに。やけに目立つ赤いツナギを来た、小柄で可愛く物怖じしない女の子であった。いや、本人気にしてたら申し訳ないけど、本当に細くて小さい。どんだけリアルロケットガールなんだ。
まとめめいたもの。
こういう人が書く本ばかり読んでるから、人間を特別扱いするような思想が嫌いになるんだろうな、俺は(笑)それはもう同意しますよ。科学分野では、人間性なんてノイズにすぎない。目を曇らせるだけだ。
ありがたいことに、野尻氏はこのプレゼン資料を野尻ボードで公開している。出席した人も、出席できなかった人もゲットすべし。
三人目・林譲治
待ってました!必ずAAD(人工降着円盤)の話をしてくれると思っていましたよ!
俺が"降着円盤"という自然界の偉大なメカニズムを知ったのは、林氏のAADDシリーズがきっかけだ。物語の中核に位置し、実に魅力的なSFガジェットであるAADは実に気に入っていて、その仕組みへの興味は尽きない。
AADDシリーズの設定は、緻密な計算によって支えられていた。AADは天王星の衛星軌道に配置されている設定なのだが、その最適な距離と傾斜を求めるべく、三ヶ月にわたって計算を行ったという。計算を避ける作家もいるけど、直感だけでは世界は理解できない。よって必要があれば計算すべき。それが林氏の考え方だ。
四人目・堀晃
ハードSF界の大御所も大御所である、堀晃氏のプレゼン。
新しい天体を見つける、というのは面白くて、刺激を受けるものなんだ!ということで、SFに登場した個性的な天体———ここでは"特異天体"と呼ぶ———を紹介する。例えば、『リングワールド』に登場したリングワールドやAADも特異天体の一つだ。
わかるわかる。どれも面白かった。宇宙にわけわかんないものが浮かんでる、というシチュエーションに燃えないやつはSFファンとは言えない。
ここで山本弘氏の著作を挙げたら、本人が来ていたので(笑)コメントを求められた。
「林氏の計算はすごすぎで、自分ではそこまでやれん」とのこと。実際、読者も他の作家もそこまで読み込んで検証しないし。が、今回の講師の皆さんが言うには、この中で小林氏だけは検証までやるそうなので、気を抜けないのだという。
第38回星雲賞授賞式
昨年度までに終了したSF作品・SF活動中で最も優れたものに与えられる"星雲賞"の授賞式が粛々と執り行われた。ヒューゴー賞と違って、実にあっさりとしているので、特筆するようなことがない。強いて言えば、なぜかメイドさんと女子中学生が式の手伝いをしていたことぐらいか?いや、もう少しあるが、後で書く。
- 自由部門
- M-Vロケット
- ノンフィクション部門
- 笹本裕一『宇宙へのパスポート3』
- アート部門
- 天野喜孝
- コミック部門
- 芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』
- メディア部門
- 『時をかける少女』
- 海外短編部門
- アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルション『ワイオミング生まれの宇宙飛行士』
- 海外長編部門
- フィリップ・リーヴ『移動都市』
- 日本短編部門
- 野尻抱介『大風呂敷と蜘蛛の糸』
- 日本長編部門
- 小松左京・谷甲州『日本沈没 第二部』
"自由部門"、"メディア部門"、そして"日本長編部門"は、まーそうなるのも仕方ないだろう、という感じ。
"コミック部門"では、『ヨコハマ買い出し紀行』が『DEATH NOTE』を抑えて受賞。でも、SFファンらしい選択だと思う。
"日本短編部門"は山本弘『詩音が来た日』が来ると思っていたんだけどなぁ。受賞した野尻氏は「宇宙開発がどれだけSFファンから支持されているかがこれでわかる」と言っていたが、そういうことなのかな。いや、『大風呂敷と蜘蛛の糸』も抜群に面白い短編だと思うよ。
笹本氏と野尻氏が、二人とも"はやぶさ2"の危機を訴えていた。小惑星探査機はやぶさの成果を次に繋げるべく、再び小惑星探査ミッションを組もうとしているが、どうも状況が思わしくないらしい。えぇ、応援しますとも。あれだけのことをやったのに、その成果を日本で生かし切れず海外に持って行かれるなんて許せるもんかい。
しかし・・・式の進行があまりに杜撰すぎるんじゃねぇ?スライドが全然先に進まないとか、先に進みすぎて受賞作をネタバレするとか。通訳を全然挟ませずにベラベラしゃべり続ける人も多かった。ヒューゴー賞のプレゼンター達はちゃんと気を遣っていたのに・・・。初のワールドコンで忙しいのはわかるが、海外から来ている人たちはこれを見てどう思うかね。
特に、柴野拓美先生がずっと俺のターン!な話を延々と通訳も挟まず続けたのはまずかったと思うなぁ。日本国内限定なら、なんといっても柴野先生だから、仕方ないなぁ、と苦笑いしていれば良いのかも知れない。しかし、理解できない言葉で延々と30分以上もトークを続けられた海外の人々からすれば顰蹙ものだったんじゃあ。俺ならたぶん、今後日本にワールドコンを持ってくることに抵抗を覚えると思うな。
ロケットガール上映会
アニメ『ロケットガール』1〜6話の上映会。
いや・・・これはどうしようか悩んだんだよ。だって、俺DVD買って何回も見てるし。確かに原作者の野尻氏と、宇宙開発ならこの人!というノンフィクションライター・松浦晋也氏からいろいろ話を聞けるのは魅力的なんだが、だからといっていつでも見ることができるアニメの上映会にワールドコンの貴重な三時間を投入してよいものか・・・。
が、星雲賞授賞式で野尻氏が「JAXAが作った小惑星探査機はやぶさのドキュメンタリーを借りたので上映する」と宣伝したので、行くことに決めた。俺もファンの端くれだ、腹をくくるぜ。
ロケガのアニメは、まぁ内容としては特筆することも無く・・・あぁ、そうそう、オタクばかりじゃなく小さい子にも受けがよかったので安心。あと、やっぱり逆ポーランド演算電卓のネタでは会場大爆笑。そうそう!こういう一体感を感じたかったんだよ、俺は!
ところで、午前中の企画に登場した、赤いツナギのリアルロケットガールだが・・・。
ついに壇上に上げられました。ほんとに緊張していない感じだな。場慣れしてる?
"ロケットガール養成講座"の裏話をいろいろと聞かせてくれた。えーと・・・うん、これは書けないな(汗)でも、かなり頑張ってロケット制作に打ち込んでいて、パーツはほとんどイチから作ったらしい。フルスクラッチってやつだ。
野尻氏は、この講座を報道した"バンキシャ!"という番組が、海外から輸入したロケットを使っているだけ、と受け取れるような表現をしたことに未だに釈然としないものを感じているようで、ちゃんと彼女たちが自力で作り上げたことを強調する。
ロケットガール豆知識。
- 小説4巻に登場する本橋教授のモデルは?
- "はやぶさ"の川口プロマネ。でも、名前はなんの関係もない。ファミレス(ガスト)で小説を書いているとき、そこのウェイトレスに本橋という名前の人がいたので、それを使った。
- DVD4巻
- 問題の7話のリテイクがようやく完了したらしい。徹底的に直したとのこと。そうか、ちゃんと茜をかわいく描いてくれるんだな。よかった。
- はちどり
- 最初は"はやぶさ"を使おうと思ったが、"はやぶさ"が野尻氏の想像を超える復活を果たしたので、そのまま使えなくなった。よって、似て非なる探査機を設定した。
続けて、はやぶさドキュメンタリーを見せてもらったわけだが。タイトルは『祈り』。
えー・・・シャレにならないほどすごく良いデキでした。
数多くの成果と、数多くの伝説を残し、今も地球への帰還を目的としてギリギリの運用が続けられる"はやぶさ"。この不死身の小惑星探査機の打ち上げから現在にいたるまでの物語を、美麗なCGと感動的な音楽をもって制作したのがこのドキュメンタリーだ。
長い時間と空間を超えて、たった一機でイトカワにたどり着き、幾度となく挑戦を繰り返す様が、すさまじくリアルなCGで完全再現される。そして、今も遠い宇宙空間で、満身創痍になりながらも、地球を目指し一生懸命帰ってこようとしている・・・。
ほんとに泣けた。俺だけじゃない。周りからも鼻をすする音が何度も聞こえた。一度見ているはずの野尻さんも泣いていた。
すみません。でも、これは泣いちゃいますよね・・・。
泣いちゃいますとも!(涙)いやもう、これは仕方がないです。むしろ、泣く方が人として正しいのですよ!
調べてみたら、このドキュメンタリーを制作した株式会社LiVEのサイトのニュースに、次のような告知が。
JAXA 宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機「はやぶさ」の全ミッションを再現したCG映像「祈り Return of the Falcon 小惑星探査機 はやぶさ の物語」を制作しました。
はやぶさミッションのためにつくられた音楽をバックに全編CGによる作品(25分)です。
この映像は、全国の教育機関へ配布される他、DVD-VIDEOとして販売される予定です。
よしわかった。買う。俺買うよ。
このドキュメンタリーについての豆知識。
- 完璧な再現
- 劇中の"はやぶさ"の軌道は、実際のテレメトリーを元に可能な限り忠実に再現されており、小惑星イトカワへのタッチダウンのシーンに至っては、スラスターの噴射回数まで正確に合わせてあるという。
- スタッフロールに2chがある件
- 「とにかく名前をたくさん載せたかった」ということで、なんでもかんでも載せた次第。松浦氏にも、「とにかくたくさん載せたいから、名前を挙げて欲しい」という依頼が来たらしい。「ロケットまつり」の名前もあったりする。
- スタッフロールの名前の順番
- 面倒だから単純にソートしたらしい。だから、責任者が先頭、といったようなお決まりの並びになっていない。
最後まで悩んだが、やっぱりこの企画に出てよかったわ。みなさん、どーもありがとうございました。
えー、四日目は以上。
明日は最終日なのだが・・・これといって出たい企画が無い。強いて言えばクロージングは出ておきたいが、それだけのために横浜くんだりまででかけるのもなぁ。
というわけで、最終日は行かない可能性大。