超常現象をなぜ信じるのか

超常現象をなぜ信じるのか―思い込みを生む「体験」のあやうさ (ブルーバックス)超常現象をなぜ信じるのか―思い込みを生む「体験」のあやうさ (ブルーバックス)
菊池 聡

講談社 1998-09
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私たちの体験とは、自分で思っているほど確実なものではなく、世界のできごとを正しく反映しているわけではないのです。

UFO*1の目撃、超能力、臨死体験、占い、虫の知らせ、などなど……これら超常現象は、科学的根拠に乏しいにも関わらず、人々から根強く信じられている。なぜこれらを信じてしまうのだろうか?

本書は、人が「信じる心」を持つ仕組みについての解説書である。これがおそろしく面白くてわかりやすい!
人の「信じる心」の多くは、自分の体験から生まれる。しかし、人の体験というのはいい加減なものであり、それを信じることの根拠とするのは間違っているという。

人間は五感を通じて「体験」し、そのことを「記憶」する。しかし、それらにはビデオカメラのように外からの情報がそのまま反映されているわけではない。人は認知した情報を短時間で的確に処理するために、常に情報の加工や取捨選択を行っているのだ。それは我々が不自由なく生きていくために必要な優れたシステムだが、そうして変化した情報は我々に本来存在しない「事実」を見せてしまうことがある。

本書では人がそうした錯誤を起こす例をたくさん挙げている。錯視によりものの大きさや距離感が現実とずれたり、動いていないものが動いているように見えたりする。後付の情報で記憶がたやすく改変される。たくさんある情報から、無意識に自分の期待に応えるものだけを選び取ってしまう。などなどだ。また、人が確率について誤解しやすいことは「誕生日のパラドックス」や「モンティ・ホール問題」などでよく知られており、この誤解が単なる偶然を「奇跡」であるかのように感じさせる。

我々は、何かを感じることも、覚えておくことも、それらを後から評価することも、全て上手には出来ない。いや、むしろ上手にやりすぎることが問題というか。とにかく、情報をありのまま受け取ることが出来ないのだ。そのことがよくよくわかる。
人は錯誤を起こしてしまう。認知のメカニズムがそのようにできているのだから、仕方がない。だから、物事を正しく捉えるためには自らの「体験」に疑いを持ち、より客観的な手段で検討するよう心がけなければならないのだ。

超常現象はさておいて、人の認知の興味深いメカニズムと、そこから起きる錯誤を回避する手段を教えてくれるすばらしい本だった。

*1:ここではエイリアンクラフトを意味する