人体 失敗の進化史

人体 失敗の進化史 (光文社新書)

人体 失敗の進化史 (光文社新書)

地球生命の頂点に立ち、信仰を持つ人々が神の姿写しと考えている人間の体。それは、行き当たりばったりの機能変更を繰り返した結果行き着いた、不格好なできそこないであった。しかし、そこに至るまでに辿ってきた不器用な進化の歴史は、生命のあがく力に満ちた、あまりにも力強く逞しい過程であった。その痕跡は、生命の体のあちらこちらに残されているのだ。

そんなわけで、人間を始めとした生命たちが、厳しい自然界で生き残っていくためにどれほど強引な設計変更を施してきたかを語る本である。

もし神なる者が進化を制御していたとしたら、そいつはかなりずぼらなプログラマであったに違いない。しかも十分な設計もしないでかなり短納期な開発を繰り返したらしく、いきあたりばったりもいいところの実装ばかり。ある機能を当初の実装目的とはまるで異なることに使うことも多々ある。スパゲッティコードの嵐で、醜い溶岩溜があちこちに固まっている。深刻なバグも一つや二つではない。俺がコードレビュアーなら、こんな不細工な代物なんぞゴミ箱行きにしてやりたい。

しかし、それもやむなし。生物は、無から新たな部品を作ることはできない。できることは、ただ元々持っているものを改造していくのみ。ピカピカの新品を手に入れたり、気に入らないから作り直すなんて都合の良いマネはできないのだ。

そんな事情があるから、人間の体はいろんな不都合を抱え込んでいる。腰痛に肩こり、立ちくらみ、冷え性にむくみ。特に人間は4足から2足歩行、水平から垂直という大きな飛躍を行っているから、いびつさも際だっている。

しかしそれでも、人間はここまでの知能を備え、その気になれば地球の外まで意識を向けられるほどの生き物となった。生命の力強さと可能性の大きさは計り知れない。その偉大さと面白さを教えてくれる一冊だ。

そう、『失敗の進化史』などと名乗りながら、この本は実は生命への賛歌に溢れているのだ。