天地明察

天地明察天地明察
冲方

角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-12-01
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マルドゥック・スクランブル』他で知られる冲方丁による時代小説。さすがというしかない出来。

時は江戸時代、碁打ちでありながら算術と星に惹かれた男、渋川春海の生涯を描いた作品である。
ところで主人公である渋川春海という人物、おそろしく勉強しているし、賢くもあるのだが、決して天才ではない。また、権威にびくびくすることも多々あり、なんというか頼りない男である。

しかし、彼の人柄と情熱は多くの権力者や天才たちを動かす。そしてそれは一つの偉業へと結びつく。

それは"改暦"。時間の流れを定めるという偉業だ。渋川春海は算術と観測で、地を定め、天に手を伸ばし、日本独自の新しい暦を定めるべく奮闘する。

単にカレンダーをちょいと変えて終わりというのではなく、ある意味国家をひっくり返すような大作業となっている。これを、渋川春海がやる。一見頼りがいのない、約束した日時にことごとく遅れる、算術馬鹿の男が。がくがく震えたり、涙声になったり、腹を切りたくなったりしながら、やる。失敗ばかりを重ねるが、それでも立ち上がる。このあまりに等身大な男の奮闘に、読んでる自分ものめり込んでいくのを止められない。一緒に嘆き、怒り、喜んでしまう。さすがに腹を切ろうとまでは思わないが!

また、春海を取り巻く人々も非常に魅力的に描かれていて、彼らとのつながりが読んでいてまた胸を熱くさせるのだ。

マッチョな戦士も神や精霊の導きもないが、頼れる仲間たちの想いを受け継いで苦難を乗り越え偉業を成す、これは立派な英雄譚である。そして、なんとも熱い物語であった。

そうそう、『マルドゥック・ヴェロシティ』以来、文体がアッチにいっちゃった冲方丁氏であるが、この本は一般的な文体になっているので安心していただきたい。