タイタス・クロウの帰還

タイタス・クロウの帰還―タイタス・クロウ・サーガ (創元推理文庫)タイタス・クロウの帰還―タイタス・クロウ・サーガ (創元推理文庫)
Brian Lumley 夏来 健次

東京創元社 2008-11
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大小の球体の群れをなす原形質の巨塊はおぞましい青紫色を呈し、同時にねじくれ絡まりあうロープの塊のごときゼリー状の巨大物体とも見え、眼はふくれあがり、触腕は震えのたうち、口は……絶叫する悪夢の深き海より出でし、超感覚の主にして恐るべき超邪悪の王、ヨグ-ソトースの姿だ!

そんな心ときめく描写がぬらりと光るクトゥルー神話ものを読んでいたはずが、気づいたら『永遠の戦士タイタス』を読了していた。そんな、コズミックホラーが音を立てて砕けるタイタス・クロウ・サーガ最新刊登場。
前作『地を穿つ魔』の最後におけるCCD―クトゥルー眷属邪神群―の襲撃から、あのチャンドラプトラ師も使った謎の機械「ド・マリニーの掛け時計」を使って命からがら逃れたタイタス・クロウとその親友ド・マリニー。この二人がその後どうなったのかを描くのが本書である。

ド・マリニーは事件の10年後に満身創痍の状態で発見される。まぁ彼のやったことはちょいと時間を飛び越えた程度であって、ちっともたいしたことではない。驚愕すべきは、遅れて帰還することとなったタイタス・クロウの時空を超えた大冒険であろう!ド・マリニーの掛け時計に乗って、人類はすでに死滅しているらしい遠未来の地球で甲虫めいた種族*1のモニュメントに驚愕したと思えば、白亜紀プテラノドン相手に大立ち回り、あのヨグ=ソトースをぺてんにかけ、さらには女神の導きを受けて神の前に。しかも、その過程でタイタス・クロウの体はなんと…。

好意的に解釈すれば、HPLの『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream-Quest of Unknown Kadath)』のようだと言えなくもないが…いや、やっぱりマイケル・ムアコックの『永遠の戦士』シリーズが連想されて仕方がない。良くも悪くも。

いや待て、その行き当たりばったり的冒険活劇を説明するだけでは、本書の真の力を言い表せていない気がする。もっとも予想外でハッタリが効いているのは、やはり驚愕の追加設定であろう。曰く…

つまりクトゥルーにはそれら三柱の息子がいるのみとされてきたが……しかし他にもう一柱、<娘>がいることがわかったのだ!
その雌性邪神は名をクティーラといい、<クトゥルーの秘められし胤>の異名を持つ。

な、なんだってー!?なんとクトゥルーの<姫>。それ以前に、お前ら(旧支配者)性別という概念があったのか。

他、「アザトースというのは、実は核エネルギーを指していたのだよ!」というすさまじい解釈にさらりと触れるところも面白すぎる。いやいや、まだまだこんなもんじゃないんだよ、旧支配者誕生の真相に至っては、本を投げ捨てたくなるかもしれないよ、そんな安直な設定が許されていいのか!と。俺たちの知っているクトゥルー神話がまったくの別物に作り替えられてしまったように感じる。もうやりたい放題。ラムレイ無双すぎる。

そんなわけで、前作の時点ですでに熱心なラブクラフティアンが卒倒しそうなほどダーレス神話に傾倒した本シリーズであるが、本書ではそれにさらに磨きがかかった!いや、ダーレス神話のほうがまだしもHPLのコズミックホラーに近い。これはもはやラムレイ神話だ。あまりにやらかしてくれるので、もはやある種の爽快感すら覚えてしまい、結局面白く読んでしまった。コズミックホラーは死んだ!しかしまぁ、これはこれでアリかもしれん!

クティーラ姫については、設定が説明されたぐらいで話にはちっとも絡んできていないので、今後の活躍を期待したいところ。次作はもっと早く刊行してよ、お願いします。さすがにまた7年待つのはつらい!

*1:偉大なる種族?