地を穿つ魔

地を穿つ魔 <タイタス・クロウ・サーガ> (創元推理文庫)地を穿つ魔 <タイタス・クロウ・サーガ> (創元推理文庫)
夏来 健次

東京創元社 2006-01-11
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地中生物とおぼしきものながら、一見蛸に似た形状で…ぶよぶよした黒っぽく長い袋状の胴体から、無数の触手を波打たせ…ゴムのような質感の表皮からは、悪臭放つどろどろした白い膿汁を滲出させ…眼はなく…頭部も無く…

うわー☆きっもーい☆

…久々の暗黒神話な空気に、思わずトキメキを感じてしまったぜ。好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかのう?

ブライアン・ラムレイタイタス・クロウ・サーガ - 地を穿つ魔』!!
暗黒神話体系!
タイタス・クロウ
水神クタアト
CCD対ウィルマース・ファウンデーション

ダーレス神話を元にした、邪神たちと地球人類の闘いを描く異色の、それでいて著名なクトゥルー神話ものの一つだ。ブロウン館に住むオカルティスト、タイタス・クロウを主人公にした本としては、短編集『タイタス・クロウの事件簿』がでていたが、長編が邦訳されるのは今回が初!待っていました!待ち焦がれていました!地を穿つ魔、すなわちシャッド=メルとクトーニアンの脅威、そして人類との闘いを描く物語。

CCD = Cthulhu Cycle Deities = クトゥルー眷属邪神群。名前からすると、いいとこダゴンや深きものどもあたりを指すような気がするが、クトーニアンや、よりにもよってウボ=サスラも含まれるそうなので、どうやらクトゥルー神話世界に登場する全ての神格とその眷属を指すようだ。

CCDに対抗し、これらの殲滅を目的とした超国家組織、それがウィルマース・ファウンデーションである!もう、ラブクラフトの諸作からこの世界に入った俺としては、お前ら正気か?と問いたくなるような設定である。相手は邪神ですよ?異次元から飛来した超越存在ですよ?地球人類なんてチリにも等しい存在がいくら寄り集まったって適う相手じゃないですよ?それが適ってしまうから話が成り立つのだが、それって全然コズミック・ホラーじゃない!

が、ダーレス神話が元になっている以上、なんとかなるのである。邪神の力を退けるためには、敵対する別の邪神の力を借りるのである。それよりなにより、ダーレス神話にはうさんくさいことこの上ない正義の神々『旧神』がいる。彼らが残した印を示すだけで、CCDは怯んでしまうのである。

けなすような口調だが、実は嫌いじゃない。妖怪やバケモノ退治の話というのは、それこそ神話の時代から存在する、万人に好まれる定番中の定番なのである。それに、コズミック・ホラー的な側面も完全に消えているわけじゃない。

タイタス・クロウもウィルマース・ファウンデーションの面々も邪神の眷属を駆逐するのだが、「最も危険度の低い敵」とこき下ろした邪神シャッド=メルにそれは手ひどい反撃を受けて少なからぬ犠牲を払う。冒頭に引用したようなおどろおどろしい描写もたくさん。「石油採掘のために海底をボーリングしていたら、たまたま封印されていた邪神にでくわして、どてっぱらに穴を空けてしまった」なんて無茶な話が出てくるに至っては、むしろ良い方向に突き抜けてるんじゃないかこれは?とも思える。

ラブクラフトのコズミック・ホラーに強い執着が無いならば、これは間違いなく面白い。クトゥルーもののお約束もそりゃもういっぱい。登場人物たちからして、かつてラブクラフトが書いた短編の主人公の子供だったりする。サービス精神旺盛。