七時間目の怪談授業

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

「でも先生!私は見たんです!夢じゃないです!」
静香はくちびるをとがらせて、すねたように言った。
「でもね、ずっと幽霊のことを考えてすごしていれば、何を見ても幽霊と関連づけて考えてしまう、ということもあるんじゃないかな?」
先生の落ち着いた笑みは変わらない。

児童向けのレーベルである講談社青い鳥文庫から刊行されている『七時間目シリーズ』の一作目。ASIOSのおすすめ本レビューで取り上げられていたので読んでみたのだが、こいつはすばらしい。皆子供に読ませるべき。健全な思考を身につけてほしければ。
「9日以内に同じ内容のメールを3人に送らなければ、事故死した少女の霊に呪われる」という"呪いのメール"を受け取ってしまった主人公・はるか。呪いは怖いが、友達にこんなメールを送るのも気が引ける。悶々としているうちに、学校に携帯電話を持ち込んでいることが先生にバレて没収されてしまう。このままではメールが送れず呪われてしまう!はるかは事情を説明して携帯電話を返して欲しいと懇願するが、呪いなど信じていない先生は請け合わない。その代わり、一つの提案をする。自分に怖い話をして、幽霊の存在を信じさせることができたら、携帯電話を返すと。

それで、冒頭に引用したようなやりとりになるわけである。通常、こういう話では子供の方が真実を言っているのに、頭の固い大人がそれを信じない、という構図になるものである。しかし、この本ではまったく逆。先生は、霊の存在を信じていたり、自分には霊感があると語る児童たちに、"主観"と"客観"の違いや、思いこみの力について説明する。そして、彼らの幽霊話が説得力に欠けることを優しく諭すのである。

ただし、「幽霊なんているわけないだろ、信じる奴はバカ」という話になっていない点がこの本の面白いところである。確かに児童達の主張は上記のような教育で退けているが、最終的に主人公を"呪いのメール"への恐れから解放したのは、そうした理屈ではない。決め手となったのは、先生が語ったあるお話。"七時間目の特別授業"の最後に、先生は児童達にとても大切なことを教えるのだ。

タイトルに"怪談"とあるが、一昔前に流行った『学校の怪談』シリーズとはまるで視点が異なる、健全な思考と、人を思いやることの大切さについて書かれた、実に希有な本であった。単に読んで面白いのはもちろんだが、知育面・道徳面でもおすすめできる。