クロノス・ジョウンターの伝説

梶尾真治クロノス・ジョウンターの伝説』読了。昨年夏、『この胸いっぱいの愛を』などというこっぱずかしいタイトルで映画化されたのだが、なるほど、そういう内容である。

クロノス・ジョウンター。正式名称「物質過去射出機」。その名の通り、物質(生物・非生物を問わない)を過去のある時点に射出する機械である。これを使用することで、短い期間ではあるが、過去に飛び、歴史の改変すら実行できてしまう。ただし、そんな好都合なことを実現する以上、それなりの代償を伴う。これは、ヘタすると人生を棒に振るほどの大きさである。

SFかなぁ、と思っていたが、これはファンタジーだな。一応、時間移動の原理はある程度説明されるが、正直そんなのどうでもよい。「なんだか知らないが、そうなるものは仕方がない」と割り切って、科学考証はさておいて物語の流れを楽しむ本だ。

あとがきにもあるが、時間旅行ものは、恋愛話と相性が良い。クラークの『夏への扉』もそうだし、ついこの間読んだ恩田陸ライオンハート』もこんな話だった。藤子不二雄の『TPぼん』ですらやっぱり恋愛要素は出てきた。時間によって生じる距離は、遠距離恋愛など問題ではないほどで、それはもはや断絶と言っても良い。そんな中で芽生えた恋は、将来確実に訪れる別れが後押しして、それはそれは燃え上がるのである。この本に収録されている4つの短編で、恋愛と無関係な話は一つもない。そりゃ映画化もしやすかろうて。

けっ。

でも、さすがは『おもいでエマノン』を書いた梶尾真治。なんだかんだで面白い。読みやすいし、恋愛どうこうを抜きにしても、時を超えても繋がる人間関係に感動できる。ご都合主義が多すぎる感じがするが、まぁ目をつぶろう。

ところで、『エマノン』シリーズの新しいの読みたいです、梶尾先生。