ストリンガーの沈黙

ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

22世紀の太陽系を舞台にしたSF短編集、林譲治ウロボロスの波動」の続編がずいぶん前に出ていた。「ストリンガーの沈黙」という書き下ろし長編である。これらは、作中に登場する組織AADDの名前を取ってAADDシリーズと呼ばれているらしい。

22世紀、冥王星軌道で、火星ほどの質量を持つ小型ブラックホールが発見された。これを放置しておくと数百年後に太陽に落下することが明らかになったため、この軌道を改変し、ついでにこれを核にした人工降着円盤(AAD)を構築、太陽系におけるエネルギー問題を解決しようという大プロジェクトが発足。これを遂行するための組織としてAADDが作られた。ほとんどが宇宙入植者で構成されたこの組織は、地球から遠く離れ、宇宙という過酷な環境に適応する必要性から地球に生きる人々とはあまりに異なった社会体制・価値観を築くに至っており、このことが地球人との軋轢を生んでいる。

そうした背景のもと、戦争への秒読み状態になるAADDと地球、地球人類が初めて遭遇する地球外知性と目される謎の存在"ストリンガー"とのファーストコンタクト、原因不明のAADの不安定化、といったもろもろの要素が絡み合い、影響しあって物語は進行する。

AADDという組織の有り様と、そこに属する人々の生き方が相変わらず面白い。こういう風に「組織」や「文化」に着目して前面に押し出したSFって、ホーガンの「断絶への航海」とこれぐらいじゃないだろうか。プロジェクト駆動型でピラミッド構造を作らない柔軟な組織構造、「ウエッブ(ウェアラブルコンピュータ)」による高度な情報化、肩書きではなくその人そのものを見るという思想…AADDという組織、いや、厳密には組織とは呼べない社会基盤はそれはそれは魅力的だね。特に、AADDはその成り立ち上、技術者・科学者の集団なので、エンジニアである俺は共感も持てる。

ファーストコンタクトものとしても十分に及第点である。一昔前みたいに、銀色だったり緑色だったりする人型の生物をUFOに乗せたぐらいじゃ今の読者は相手にしない。詳しくは書かないが、この作品に登場する"ストリンガー"も相当に変わっている。あまりに異質で、その実体を想像することすら難しい。SFを名乗るからにはこのくらいでなくてはな!いや、本当にファーストコンタクトって難しいよな。人類が本当にこれに直面するのはいつの日か。

まだ続きを書けそうな感じなので、続編待ってます。