楽園の泉

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

軌道エレベータ、というものを知っているだろうか?地上から宇宙空間まで伸びる超巨大なエレベータないしロープウェイのことである。この軌道エレベータを初めて取り扱ったSF小説のひとつが、アーサー・C・クラークの『楽園の泉』である*1
巨大な吊り橋を建築した経験を持つエンジニアが、次の野望として軌道エレベータ(作中では宇宙エレベータ)の建設に挑む、という話である。技術的な課題や、不動産問題をなんとか解決させつつ、未曾有の巨大建築を押し進めるのだ。

正直に感想を言うと、いまひとつである。1979年にこれだけの話を書けるのはさすがクラーク、と思う。しかし、建設予定地に存在する寺院やそれに関係する伝承の記述がほぼ半分を占めていて、そのへんに興味がわかない俺としてはなんか物足りない感じ。通常だったら大喜びするネタ「スターグライダー」も、ここで出す必要が本当にあったのか?と思ってしまう。宇宙エレベータのような大がかりなもんを作るためには、人類の思考をワンランク上げておく必要があったってことだろうか。

断っておくと、「いまひとつ」なだけで、駄作ってことはない。SFとして面白い部類である。宇宙エレベータ建設に当たって発生する数々の障害は、あり得るなぁ、と納得させられるものばかりである(新しいものにはとにかく反対する連中とかね!)。また、物語の最後らへんは、それはそれは盛り上がる。軌道エレベータについての知識も(古いのだろうけれど)増えたし。

この本を読んで、野尻抱介「ふわふわの泉」が、タイトルだけでなくストーリーラインもこの「楽園の泉」のオマージュになっていたんだなぁ、とわかったのも収穫の一つか。

軌道エレベータというアイデアがこの世に登場したのは1960年代のこと。宇宙への輸送手段として、ロケットと比較して素晴らしい利点が数多くあるのだが、これまでほとんど顧みられることはなかった。というのも、軌道エレベータを作るためには非現実的なまでに強靱な素材が必要なのだが、当然ながら地上に存在するいかなる物質もそれに応えることができず、建設は不可能とされていたのである。しかし、2000年に脅威の新素材「カーボンナノチューブ」が発見され、にわかに現実味を帯びることとなった。NASAはもちろんのこと、いくつかのベンチャー企業までが軌道エレベータ建設に動き出している。まだまだ問題は山積みだが、宇宙まで伸びる巨大な「塔」の存在は、絵空事では無くなってきているのだ。詳しくは、Wikipediaを見るかGoogleに聞いてもらえればよいと思う。

でも、見たいね!東京タワーなんぞ、いや、人工・自然問わず全ての「存在」がめじゃない、想像の埒外にあるような巨大建造物!しかも、軌道エレベータならばロケットと違って訓練無しの一般人でも宇宙に出られるわけだ。すばらしい!俺が生きてる間に建築されることはないかなぁ、と思っているが、それでも期待したい。

*1:チャールズ・シェフィールド『星々に掛ける橋』も同時期に発表された