99%の誘拐

99%の誘拐 (講談社文庫)

99%の誘拐 (講談社文庫)

岡嶋二人といったら、俺は「クラインの壺」しか知らないのだが、どうやらそれは最終作のようで、それ以前に結構たくさん本を書いていたようである。そのうちの一冊がこの「99%の誘拐」。コンピュータを駆使して完全犯罪を企てる男の話である。

1988年に書かれた本というだけあって、用語が古い。そして、刑事がコンピュータに無知で頭を抱えるところなど時代を感じさせる。が、何より時代を感じさせるのは・・・「ラップトップコンピュータ」という呼び方、そして音響カプラ。学生のころは欲しかったなぁ。公衆電話からカプラ使ってネットワーク利用・・・うーん、サイバー!熱い!そこにしびれるあこがれるぅ!そんな若かりし日の思い出。

違う、そんな話に花を咲かせるような本ではない。

自分が捜査現場にいながら、遠隔地にあるコンピュータに誘拐犯を演じさせるという、とんでもない方法で自分のアリバイを作る。ある手段で簡単なコマンドなら送れるようになっていたものの、これをやろうと思うと、先の先の展開を読んで、考え得る全てのパターンをプログラミングし、しかもそれがリハーサル無しのぶっつけ本番で動かなければならない。現実的に考えればまず実行不可能な犯罪なのだが、それだけにすげぇなぁ、かっこいいなぁ、イカしたスーパーハッカーぶりだなぁ、などと思ったり。いいんです、フィクションなんだから。それに、PC一台で米国国防総省に侵入したりする作品がまかり通るこの世界にあっては、まだまだおとなしい方である。

この手の話ではイレギュラーな事態の一つや二つ起きないとつまらんものだが、この本は都合良くコトが進みすぎる気がする。次から次へと出てくる仕掛けにワクワクしながら読んだが、スリルが無い。「なーんかうまくやっちゃうんだろうなぁ」と安心して読めてしまう。でも、タイトル通り「99%」なのでギリギリセーフとしよう。

と、ケチつけつつものめり込んで読んでしまい、ものの数日で読了してしまった。リアリティの面ではちょっと弱いが、SF好きな俺としては十分に許容範囲。そして、物語は秀逸。そんな本。