鉱石ラジオ

ことの発端は、某日某所の喫茶店である。

友人とのおしゃべりに興じていたところ、なんとなく工作の話になった。そこで、電気工作といえばこれだろうと、俺が鉱石ラジオを話に出したところ、そいつは「コーセキ?ってどういう字?」などと訳のわからん質問をし出した。どうやら聞いたこともないらしい。

おい、冗談だろう!?一般ピープルならまだしも、工学系にいる人間が、鉱石ラジオも知らないってなんだそれ、ゲラゲラゲラ!

・・・と、バカにして多いに笑ってやろうと思ったのだが、そこでそいつが言う。

「石とラジオが頭の中で繋がらない」

ばっか、そりゃおめぇ・・・ほら、アレだ・・・電子部品の・・・んん?

おれ、知らねーじゃん!大雑把なイメージしか無い。原理がわからん。確かに、ラジオ聞くのに、なんで石が・・・なんかの電子部品の代わりになるのだろうが、そもそもソフト屋である俺に電子回路のことなどわからん。

と、人のことを笑っている余裕が消えたので、適当に話を流して場をお開きにする。しかし、気になる・・・石か。石つかって電波キャッチして、そいつから音声情報を復元できるのか(このときはよくわかってない)。なんでそんなことができるんだろう?どうしても気になる。ネットで調べるのは簡単だが、それだと頭だけで理解して体が覚えないっていうか、半端な感じがして、とにかく気持ちが悪い。

そんなわけで。

作りました。

となりに立てているのは、サイズ比較用の文庫本「マッカンドルー航宙記 太陽レンズの彼方へ」。まだ読んでません!早く読みたい!それはともかく、結構デカいのがよくわかると思う。ちょっとアンテナがゆがんでいる気もするが、小首をかしげているようでむしろ可愛げがある。つまり、萌え要素である。うるさいだまれ。俺がそうだと言ったらそうなんだ。

もっとも、いちいちDIYショップでパーツ買いそろえてきて自作したわけでもない。世の中には、便利なものがあるのだ。

学研の大人の科学シリーズその6、「磁界検知式鉱石ラジオ」。実は前々から鉱石ラジオには目を付けており、あちこちでこれを見かけては何となく記憶していたのである。これまでは単に実際に手を出すきっかけが無かったにすぎない。

パーツ点数は結構なものである。さすがに今時のガンプラよりは難しそうだ(一部のMGやPGなんてバケモノは除く)。

鉱石ラジオ、というからには、鉱石がないと始まらない。このキットに同梱されているのは「方鉛鉱」「磁鉄鉱」「黄銅鉱」「黄鉄鉱」の4種類である。

それでは、製作開始。電子回路部分の組み立てにちょっと苦戦したが(穴のサイズがちょっと合ってないか?)、製作は順調に進み、まもなく完成したのが、最初に出した写真である。

操作部分をアップすると、こんな。補助電源をバラしてしまった・・・。

大まかに説明。


プラスチックコップを二つ重ねて作ったバリコン。バリコンというのは、variable capacitor、すなわち容量可変コンデンサのことである。とにかく、これを回して選局する。カップの間に三角形のアルミシールを貼っており、接触面積を変えることで容量を変える仕組みらしい。これで目的の周波数だけを「共振」させることで約40倍に強化し、聞こえる状態に持って行くのである。


補助電源。アルミと銅の間にフェルトをかませて塩水に浸しただけの、即席電池。そういや、小中学校でこんな実験やったなぁ。なぜ「補助」なのかというと、このキットは電波を受けることによって生じる電流のみで動作するようになっているので本来は電源が不要なのである。しかし、補助電源を置いて電流を安定供給したほうがチューニングしやすいので、ついている(と、説明書に書いてある)。


配置した鉱石。これをグリグリ回しつつ、針に当てるのである。


針を当てるとこんな感じ。上に乗っているナットは、単なるおもり。これを前後に動かして、針が鉱石に当たる強さを調節する。

とりあえず、鉱石を使わずに、普通のダイオードで受信してみる。これで動けば、回路は問題ないってことである。コップバリコンをひねってみる・・・「・・・首相は7年間よくやったって・・・」おおおっ!ちゃんと聞こえる!俺様すごい。もうちょっとひねる・・・「・・・日常で、ヤなことに巻き込まれることって、あるじゃないですかぁ。・・・」よーしよしよしよし!とりあえず回路は問題なし!

それでは、ダイオードを回路から外して、いよいよ鉱石を使っての受信を試みる。つまり、鉱石は整流回路として使っているわけなんだなぁ。針を当てる場所や強さによって検波状況が変わるので、地道にチクチクとつついてまわる。結構イライラする作業である。

黄銅鉱。 聞こえる!か細いが、なんかハイテンションなねーちゃんの声が聞こえる。

黄鉄鉱。非常に・・・微妙だが・・・頑張れば・・・「最高気温11度でしょう。」きた!聞き続けることができないが、切れ切れならなんとか。

磁鉄鉱。無理。聞こえない。ちょっと強めに針を押しつけるとノイズが走るが、これは検波できてるわけじゃないだろう・・・。

方鉛鉱。ノイズがざわざわと入るし、なんか人の声っぽい音もするのだが、とうてい音声として認識できるレベルに復元されない。

ヒット率50%。まぁまぁか。あと、補助電源を外したり、鉱石の代わりにさびた釘や10円玉を使っても検波できるようなのだが、上の段階でもう相当に頑張らないと検波できないのだから、これ以上やってもおそらくうまくいかない。ここでおしまいにしておく。

覚え書き。ラジオの原理について。このキットではAM(振幅変調)を扱っている。無線通信をしたい場合、電波が遠くまで届くように伝搬性の高い高周波を使う必要がある。これは人が聞く音などとは比べものにならないくらい周波数が高いので、そのまま音声を乗せることはできない。そこで、高周波な電波の振幅を、低周波である音声の波の形に合わせるように変化させることで、音の伝達を行う。受信側は、アンテナで電波を受ける。電波を受けると、その電気振動(または磁気振動)によって電流が生じる。振動の大きさ(振幅)に応じて電流も強弱つき、つまり波になる。この電流を整流回路に通してゴミを除去し、コンデンサに通して高周波成分を取っ払って、音声の波だけを取り出す。本当か?合っているのかはなはだ自信がない。

さて、鉱石ラジオの「鉱石」が何をやっているかというと、先にも書いたが整流回路の役割を担っているのである。簡単にいうと、電流から不要な要素をカットするのに使われている。日本でラジオ放送が始まったころは、こうした鉱石ラジオがほとんどで、その後真空管やらトランジスタやらに取って変わられたとのこと。

そんなわけで、また一つ賢くなり、今度はくだんの友人をバカにできるようになったわけである。それにしても、なかなか面白いし勉強になる。あなどりがたし、学研。