終戦のローレライ
太平洋戦争末期、大日本帝国の配色が濃厚になり、特攻という狂気がまかり通った時代。帝国海軍でも特殊な経歴や特技を持つ、変わり者たちが極秘裏に集められた。彼らに与えられた任務は、戦利潜水艦「伊507」に搭乗し、海底に沈んだ特殊兵器を回収することである・・・。
福井晴敏「終戦のローレライ」読了。原稿用紙で2,800枚に及ぶという大作である。
ナチスドイツが遺した特殊兵装PsMB1、通称「ローレライ」を巡り、日本、アメリカ、ソ連の国家間の思惑が渦巻く。原爆の投下、敗戦に向かう日本、大和民族絶滅の危機。光明の見えない時代にありながらも懸命に生き、裏切りや仲間の死といった苦難を乗り越えて「自分の命をかけても守るべきもの」を見いだした伊507の乗組員たちは、自らの信念と魂をかけて、未来をかけた戦いに臨むのである。
「亡国のイージス」もそうだったが、とにかく人物描写が深い。各登場人物の今を形成した、昔話をきっちりと書く。それゆえ、部分的にクドく感じて読みづらい場所もあるのだが、それが最後の最後で結実して、彼らの言動に尋常でない重みを与える。だから、単なる戦争小説、架空戦記物にとどまらない。登場人物たちの意志に魂がこもる。感動するし、心に響く。
もっとも、戦争小説、SF小説として読んでも十分楽しめる。こっち方面が好きな人は、各種専門用語や兵器の名称がやりとりされるだけで楽しいだろう。また、「ローレライ」があるのをいいことに、普通なら実施不可能な無茶苦茶な戦術を駆使して敵艦を次々といなす様は痛快で、あのあり得ない潜水艦の装備やデザインも含めて、マンガ的な面白さがある。
また、非常に関心したのは、「あとは読者の想像にお任せする」ということをしない点である。戦いが終わった後の話、登場人物がその後どういう人生を歩んだのか、彼らが経験した戦いがその後の人生にいかなる影響を及ぼしたのか、きっちりと書き切る。問題提起だけして放り出す作品が多いなか、よくぞここまで書きました。
いろんな要素が詰め込まれているためページ数がすごいことになっており、読み始めるときに躊躇してしまうかもしれないが、頑張って読むだけの価値がある作品である。
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