ブラックホールで死んでみる

ブラックホールで死んでみる―タイソン博士の説き語り宇宙論ブラックホールで死んでみる―タイソン博士の説き語り宇宙論
吉田 三知世

早川書房 2008-10
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宇宙で最も華々しく死ぬ方法が、ブラックホールに落ちることだというのは疑いない。宇宙のどこかこれ以外のところに、原子を一個ずつ剥ぎ取られながら死ねる場所などあろうか。

「存命中の最もセクシーな宇宙物理学者」に選ばれたニール・ドグラース・タイソン博士による、軽快な語り口が魅力的な科学エッセー集。
あまり天文学や物理学に詳しくない人は、ブラックホールで死ぬとなると、高重力でぺちゃんこにされるところをイメージするかもしれない。しかし、実際はそんな地味な死に方は許されないのである。先ほどの引用でも「原子を一個ずつ剥ぎ取られ」と出てくるが、ぺちゃんこにされるまえに素粒子レベルまで分解され塵も残らない状態になる。なんでそうなるのかは、まぁ読んでのお楽しみということで。

ブラックホールのネタは、この本に収録されている数多くのエッセーの一つにすぎない。一本の棒で可能な科学的実験の話、宇宙の誕生と終焉の話、地球外生命体の話、我々生命の起源の話、映画における科学的に間違った描写の話、科学と宗教の話、などなどどこかで宇宙が絡めばいいんだよ、と言わんばかりの幅広いテーマの数々を扱っている。

別に新しい科学理論を解説しているわけでもないので、類似の本をたくさん読んでいる人からすれば、どこかで聞いたような話が出てくるだけであまり新鮮さは感じないかもしれない。しかし、科学分野以外の面白エピソードもあるので、読む価値はあると思う。ジェームズ・キャメロン監督に『タイタニック』で使われた星空が変だよ!とつっこんで逆にやりこめられるエピソードなんか面白かった。いい話だったし。

個人的には、SFによく「ケイ素系生命」というのが出てくるのだが、これがなんで「ケイ素」なのかがわかったのが収穫。あとは知っている話が多かったかな。あまり科学エッセイを読んでいない人は、この宇宙の意外な姿を見ることができて楽しいのではなかろうか。こんなへんてこなタイトルのエッセイを書く人である、文章の読みやすさと面白さは折り紙付き。