風の邦、星の渚—レーズスフェント興亡記

風の邦、星の渚—レーズスフェント興亡記風の邦、星の渚—レーズスフェント興亡記
小川 一水

角川春樹事務所 2008-10
売り上げランキング : 1475

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「おまえはこの間、この地に町を作りたいと言ったな」
(中略)
「おれもここに町を作りたい。ここを、人が訪れたいと思うような土地にするんだ。道を通し、宿を建て、市を開き、船を停めさせる」
「大きく出たわね。あなたにそれができると?」
「少なくともおまえ一人ではできない」

小川一水による、中世町おこしファンタジー。若き騎士は、どんな人でも受け入れ交流していける自由な都市を築くことを夢見ていた。泉の精は、町とそこに生きる人々を求めていた。二人の利害は一致し、理想とする町を作るべく動き始める。

いやぁ、これはくそ面白い本だったなぁ!なんかこっぱずかしいタイトルなんで、きっと小川一水の本だと知らなかったら手に取らなかったろう。ファンやっててよかったなぁ。
騎士・ルドガーと泉の精(と思われている地球外生命体)レーズを中心にして、貧しさにあえぐくたびれた町の再建が進められる。新しい町は泉の精にちなみ"レーズスフェント"と名付けられた。

中世ファンタジーという舞台設定で町を興す、という話になると、何となく暴君を剣と魔法の力で打倒するような物語になりそうである。しかし、本書は町の勃興を基本的に政治・経済的なやりとりで実現している。それが凡百なファンタジー小説と一線を画するところであり、物語を面白くしているポイントだ。何より、こういうシミュレーション的な構成は小川一水の得意分野なわけで、面白くならないわけがない。

ドガーとレーズをはじめとして、近隣諸国のトップや遠い異国の人、海賊、等々数多くの人々の人生が絡み合う群像劇としても秀逸な出来。中でも、ルドガーの弟・リュシアンはもう主役ってことでいいんじゃね?レーズスフェントの開闢に立ち会い、共に大きく成長し、文字通り死力を尽くして町を守る彼はまさに町と一心同体の存在だと思うよ。レーズについても一番踏み込んだ人物だし。特に最初は頑なで未熟さばかり目立っていたこともあって、初めから出来る人だったルドガーよりも思い入れが強くなってしまう。

レーズスフェントに降りかかる数多くの困難を乗り越えるにあたり、ルドガーたちはレーズの超常的な力に幾度も助けられることになる。が、限定的なささやかな手助けになっているので、「チートうめぇwww」と思わせるほどではない…いや、ごめん。やっぱり少し思った。もっとも、彼女の手助けを考慮したとしても、ルドガーをはじめとするレーズスフェントの人々の必死の頑張り無しには自由都市が興ることは無かった、と感じさせる内容になっている。

今回も面白かった。ファンタジーの面をしてなんだかファンタジーっぽくない、気づけばいつもの小川一水作品であった。ボリュームもたっぷりで読み応えあり。『第六大陸』や『復活の地』も本書のようにハードカバーでだせばいいのに。