天の光はすべて星

天の光はすべて星  (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4) (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4)天の光はすべて星 (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4) (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4)
田中融二

早川書房 2008-09-05
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エレン、人間はきっと星にたどり着く。どうしても他に方法が無ければ、光より遅いスピードの宇宙船に乗って、親が死ねば子、子が死ねば孫がかわって操縦しながら、あるいは道中に何世紀かかろうとも死にもせず年をとりもしない仮死状態に自らをおく方法でも発明して。

『天の光はすべて星』…いいタイトルだよねぇ。そう思わないか。あとからじわじわくる。
主人公・マックスは老齢のロケット技術者である。彼は元宇宙飛行士であったが、飛行中の事故で片足を失い、キャリアを喪失した。しかし、木星への有人飛行計画の存在を知り、彼の闘志に再び火がともる。なんとしても計画を実現させ、再び宇宙に行くのだ、と。

マックスが宇宙狂いといって良いほど宇宙に恋い焦がれる様も、「宇宙に行ってなにかいいことがあるの?そんな無駄なことに金を使わなくても」とのたまう無理解な人々をぶん殴りたくなる様も、共感できすぎる*1。そうだよ、人は宇宙に行くんだよ!こんなちっぽけな星に這いつくばったまま終わったりしないんだ!

しかし、物語の中盤あたりまではストーリーの起伏も少なく淡々と話が進んでいくので、正直退屈したところもある。特に、マックスが計画を推進する女性議員・エレナとあっさりと恋愛関係になるところなんかはもう、思ったね、フレドリック・ブラウン、お前もか、と。あなたほどの作家であっても、そんな無理矢理恋愛ネタを仕込まないと話書けないのか!と。おまえにゃがっかりだよ!と。

それだけに、話が進むにつれエレナの存在の重要さが増し、終盤の展開に至って思わず目頭を熱くしてしまうのがなんか悔しいっていうか!ちくしょう、ブラウンの野郎!やっぱり話うめーじゃねーか!

そう、この本は終盤が重要。エレナの件だけじゃなくマックスがたどり着く結末も。中盤までの起伏のない話は、こいつらのインパクトを出すために仕込んだんじゃないかと思うぐらい。主人公の宇宙にかける思いと、若かりし頃の後悔、そして捨てきれない夢。その全てがここに至るまでにじっくり描写してあるから、本当にグッとくる。

短編の名手として名高いフレドリック・ブラウンだが、『発狂した宇宙』といい、本書といい、長編も読ませてくれるわ。

*1:実際にぶん殴ったりはしないが、当然