時砂の王

時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)
時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)小川 一水

早川書房 2007-10
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おすすめ平均 star
star小川一水もうまくなったなあ
star手垢のついたテーマだが、読ませ方が上手い!
star楽しみましたが

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小川一水が時間SFに挑んだ。

26世紀。地球人類は人類殲滅をもくろむ自己増殖戦闘機械群 "ET"との戦争の渦中にあった。人類はこの驚異に一致団結し対抗したが、遂に"ET"は時間遡航技術を編み出し、まだ幼く未熟な人類を抹殺すべく過去に跳んだ。人類は、生体兵器"メッセンジャー"の軍勢を編成し、"ET"を追撃する。ここに時間を超えた長い、本当に長きにわたる闘争が開始されたのだ。

絶望的な戦いが最後の最後まで続く、緊迫しっぱなしの実に胃に悪い小説だ。本当にハラハラした。読んでいる時の、俺の心の声はこんな感じ。

(ここまでずっと絶望的な展開が続いているが、残りページも少ないし、そろそろ逆転劇が・・・そろそろ・・・もう最終章だぞ、いい加減に・・・うええぇえぇぇぇぇぇぇ!ここでそうなってしまうのか!?あと30ページも無いぞ!!)

あーもうカンベンしてくださいよ!・・・といいつつ、楽しんでるよなー、俺。

時間SFとなると、通常はタイムパラドックスをどう扱うか、という点が注目される。しかし、今作はわかりやすいレベルに抑えてある。時間遡航攻撃による歴史の改変と、存在の発生/消滅を検知できるのだ。ただ、そうしたわかりやすさを、時間遡航攻撃の非道さと残酷さを表現する道具として活用しているのだから巧い。

そう、これはSF的科学考証の妙を楽しむ本ではない。SF考証はあくまで物語に重みを与えるための道具である。『時砂の王』は、10万年以上の長きにわたって戦い続けた一人の"メッセンジャー"の人生を追い、彼の生き様に涙する、そんな切ない物語がメインなのだ。