太陽からの風

クラークって、短編書けたんだな!(もしかしてすごい失礼なことを言っている?)

アーサー・C・クラークの短編集『太陽からの風』読了。初めて読む、クラークの短編だ。特に面白かったのは、表題作の『太陽からの風』、そして『メデューサとの出会い』。

『太陽からの風』は、太陽-月間をコースとした、ソーラーセイル船6隻によるレースを描いた作品だ。ソーラーセイル船とは、宇宙で使う帆船のことである。

太陽光は、非常に小さなものだが圧力を持っている(これを光圧という)。あまりに小さくて地球上では使い道が無いが、微少重力で空気抵抗が無い宇宙空間であれば話が変わる。十分に大きくて軽い帆があれば、光圧だけで宇宙船を推進させることが可能だ。海をいく帆船と同様、燃料(推進剤)を積まなくて良いし、小さくてもずっと加速し続けることができるので最終到達速度はロケットを上回るというメリットがある。ファンタジーではなく、JAXANASAが実用化に向けて研究を進めている「技術」だ。詳しくはWikipedia:太陽帆で。

この短編は、ソーラーセイル船の特徴を良く捉えて(想像して)いて、入門書としてちょうどいいんじゃないか、と思えてくる。描写がすごく詳細で、どうにも非現実感が漂う「宇宙の帆船」に、すごいリアリティを与えるのだ。フィクションなのに。SFってのはこうでないとな!物語としては、まぁこんなもんかな、というところ。

続いて、『メデューサとの出会い』。木星に生きる生命とのファーストコンタクトを扱ったもの。人類で初めて木星に降下し、核融合炉を使った気球(!)に乗って探査を開始したハワードは、分厚い雲の狭間に驚くべき生命を発見するのだ!

木星の描写が圧巻。よくもまぁそんな見てきたように書けるな、おい。人間の距離感を狂わせる巨大さ、深さ20kmの雲の渓谷、強力な電波嵐。『レンズマン』シリーズに出てくる惑星トレンコを思い出す極限環境だ。そんな中にいる生物を書こうというのだから、ありきたりなイメージでは追いつかない。

タイトルからすると異星生物がメインっぽいが、木星の演出のひとつ、ぐらいの位置づけに見える。オチがいまひとつな感じがしたのが残念。

どの短編も、すごくイメージを湧かせる、うまい書き方をしている。野田昌宏大元帥の「SFは絵だねぇ」という名言があるが、それを体現していると言ってよい。『渇きの海』の次ぐらいには推せるね、これ。