火星人ゴーホーム

火星人ゴーホーム (ハヤカワ文庫 SF 213)

火星人ゴーホーム (ハヤカワ文庫 SF 213)

かれらは一人の例外もなく、口が悪く、挑戦的で、こうるさくて、胸糞が悪くなるようで、横暴で、喧嘩好きで、辛辣で、無作法で憎ったらしく、礼儀も知らず、呪わしく、悪魔的で、軽口ばかりたたき、おっちょこちょいで、うとましく、憎しみと敵意にみち、お天気屋で、傲慢で、分別にかけ、おしゃべりで、人を人ともおもわない、やくざな、実に持って興ざめな輩だった。

フレドリック・ブラウン火星人ゴーホーム』読了。上記の長ったらしい引用は、火星人についての記述部分である。しかもこれでも半分しか書いていない。この程度では描写しきれないほどアレな火星人が、地球に突如10億人も現れて、人間社会を荒らしていくという話である。

火星人(これも彼らがそう言っている、というだけで本当に火星人なのかは不明)は特に侵略などを意図していないらしい。地球に来た理由を聴いてみても「君たちの知ったことじゃないさ」とあざ笑われるだけである。実際、彼らは人間にこれといって直接的な危害は加えない。では、なにをしているのかというと、ただ地球人をからかって喜んでいるのだ。

彼らは地球人にはない驚異的な知能と能力を持っている上、地球人は彼らの体に触れることができないので撃退できない。どこにでも突如出現し、挑発したり、秘密を暴きたてて人間関係にヒビを入れたりして相手をいらだたせ、飽きたら余所に行く。

いやもう、こんなイヤなやつら見たこと無い。ヘタに侵略戦争持ちかけられるよりもイヤだ、これ。

これはSFと読んでいいのかどうか。科学的な話なんて全然でてこない。なんといっても、火星人の宇宙船すら出てこない!どうやって彼らが地球に来たのか?

「クイムしてきたんだ」
(中略)
「クイミングさ。瞬間移動には装置がいるけれど、クイミングは頭脳的なものなんだ。君達にそれができないのは、あんまりお頭がよくないからだよ」

いや、わかんないって。

「くだらんよ。君らの秘密兵器を総動員したって、エスキモーの一部族さえやっつけられないんだぜ。もしエスキモーがヴァーする方法を覚えたらね。なんならちょっと、おれたちがそれを教えてやってもいいんだが」
「いったいその、ヴァーするとはどういうことだ?」
「君なんかの知ったことじゃないよ、マック」

どこまでも人を食ったような連中である。オチもやっぱり人を食った感じで、なんか放り投げたようになっているが、これはこの作品のノリというやつで、むしろ面白い。

フレドリック・ブラウンショートショートの名手として非常に有名で、実際にどれも秀逸な作品ばかりなのだが、この長編にもそのエッセンスが十分に生きている。最初の数行を読んだだけで「あぁ、ブラウンだ」とわかり、読み進めるとあっさりと術中にはまってしまう。たいしてSF的でもないのに、SFファンに愛されるだけのことはある作品だ。