発狂した宇宙

発狂した宇宙 (ハヤカワ文庫 SF (222))

発狂した宇宙 (ハヤカワ文庫 SF (222))

SF雑誌の編集者キースは、あくる夜月ロケットの墜落に巻き込まれ、気づいたらこれまでと似て非なる世界に踏み込んでしまっていた。間違いなくニューヨークなのに、通貨が変わり、宇宙旅行が実現し、星間戦争まで勃発しているというのだ!

フレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」読了。平行宇宙モノの傑作として有名である。こういうタイトルだと、なんとなくダークな感じの話を連想してしまうのだが、原題は「What Mad Universe(なんて狂った宇宙なんだ)」という軽い感じであり、内容もやはりコメディである。

全体的にSFのパロディがちりばめられている。宇宙に出た女性が昔のパルプ雑誌の表紙を飾ったような無意味に露出度の高い服を着ていたり、いい加減な偶然で星間飛行するための画期的技術が発明されたり(ミシンをいじっていたら、そいつが偶然テレポートしてしまったらしい!)、いかにも異星人!といった格好した月人がうろついていたり。そういったばかげた世界の雰囲気と、そんなところに出てきたキースの悪戦苦闘ぶりを笑いながら読む本といえよう。難しいことを考えてはいけない。

最後、主人公のキースはさんざんな目に遭いながらもなんとか元の世界に戻るきっかけをつくり、命がけの挑戦にうってでる。無数にある平行世界のどこに転移するかは人の思いで決まるので(疑うな、科学考証など二の次なのだ)、元いた世界の情景、会いたい人々、愛していたことすべてを必死で心に思い浮かべるのである。感動的なシーンだ。しかし、この男・・・。

ちぇっ、なぜもっと早く気がつかなかったのだろう?べつに元いた宇宙でなくたっていいのだ。もっといいところだっていいのだ!

と、どうせならもうちょっと自分の地位が高くて、ベティ(思い人)と仲良くやれている世界に行きたいなぁ、などと考えてしまうのである。おまえ、この土壇場で自分のエゴのために世界移動するのか・・・いや、正直っていうかタフっていうか・・・ていうか、地位や女性の心をそんな手段で掴むことに疑問はないのかとツッコみたいところだが、あくまでコメディであるので笑って読み流す。

なるほど、有名になるだけあって面白い本であった。処女長編でこれだけのものを書くのだから、フレドリック・ブラウン、大した人間だ。でも、この作家はショートショートのほうが有名である。ということで、すでに短編集を2冊ほどAmazonに発注済み。さぁて、早く届かないかな!楽しみだ!