イーシャの舟

イーシャの舟 (ソノラマ文庫)

イーシャの舟 (ソノラマ文庫)

どこまでも人が良く、どこまでも不幸な青年、宮脇年輝。とことんツキがない彼の不運もここに極まり、工事現場で出くわした人外の存在に取り憑かれるハメに陥ってしまった。妖怪「天邪鬼」と思われる、その小柄で小さな角を生やした奴は、超常の力を振るうもののただただ無邪気だった。多大な迷惑を被りながらも彼はどうしても天邪鬼を憎みきれない。ならば仕方がない、と、自分が天邪鬼を人と共存できるおとなしい妖怪に躾けてやろうと考えた。しかし、そいつは妖怪などではなかったのである・・・。

岩本隆雄「イーシャの舟」読了。
「星虫」から続くシリーズもこれで三冊目。

「星虫」で言及された、大事件の背景に迫るこの話。あれをネタにしてどう考えても一本話書けるだろう、と思っていたら、やっぱり書いていた。独立して読めるようになっているとはいえ、やはりシリーズ通して読むべきであろう。「鵺姫真話」のあいつも出てくるしね。ほぼメインキャラ扱いで。

「鵺姫真話」のように複雑な構成は無く、人間(?)関係や人々の心情に重きを置いた話になっている。出だしはコメディなのに、なんですか、後半のあの切なさは。天邪鬼が成長していくにつれて、年輝との交流が実に密度の高いものになってくる。そんな中で明かされる、不幸続きの年輝が持っていた、本人も気づかずにいた、たった一つの夢。そいつがありがちでありながら、やはり文章の書き方とか構成がうまいんだろうなぁ、泣けたね。そうか、何食わぬ顔しておきながら、それを求めていたのか、奴は・・・。そりゃ、イーシャを追いかけるわい。

このシリーズは設定が非常にでかくて荒唐無稽にもほどがある、と毎回喜んでいるのだが、今作もあいかわらずである。イーシャの秘密がでかい。もう神と言って良い存在なんじゃねーのか、あいつ。あ、でも神に匹敵する存在といったら、すでに「鵺姫真話」のあいつがいるか・・・。なんにしろ、もはやSFというよりファンタジーといったほうがいいような気がしてきた。

あと、最後のイーシャは反則だと思う。しかし、読んでいてほおがゆるんでくる俺は敗者。おのれ、岩本隆雄・・・。