神様からひと言

神様からひと言 (光文社文庫)

神様からひと言 (光文社文庫)

宇宙人も、ロボットも、恒星間宇宙船も、怪物も、魔法もでてこない本を久々に読んだ。友人からの借り物である。

荻原 浩「神様からひと言」読了。

広告代理店をクビになった主人公が、古臭い腐った体質を延々と引きずっている会社に転職。しかし、そこでトラブルを起こしたため、島流し先である「お客様相談室」というクレーム対応窓口に飛ばされしまい、多いに腐る。だが、同じく飛ばされてきた個性的な同僚達と仕事していくうちに少しずつ変わっていき・・・、という流れ。

そんなに目新しいところがない。主人公の男が、昔バンドやってたけど夢やぶれていまでは普通のサラリーマンである、同棲していた恋人に逃げられるも、いまだ引きずっている、などステロタイプもいいところであり、むしろそのへんはギャグとしてわざとやっているのかと疑ったほどである。

ところが、文章のテンポが良くて非常に読みやすく、読み始めると止まらない。それに、全体的に明るい。本当は、読んでいて暗くなったりイラついたりしてもおかしくない内容のはずなのである。古臭い会社のくだらない文化、態度と肩書きばかりでかい上役、それにこびへつらう中間管理職群、握りつぶされるクレーム、はみ出た社員を退職に追い込むための嫌がらせなど、会社という組織の不愉快な面をこれでもかと書いてある。ところが、これがなぜかコメディになってしまってあっさり読めるのが不思議である。

というか、登場人物がコメディやってるから、全体の雰囲気が明るくなるのか。「お客様相談室」所属のメンバーはまともなやつが全然いないし、彼らのやりとりはほぼ漫才である。会社の無能な中間管理職層も、無能かつ無責任だが、悪人というほどではなく、せいぜい単なる小者である。

もっとも、軽いノリで話をすすめつつ、仕事や人生について思い悩む場面も挿入され、含蓄ある言葉がでてきたりもするのであなどれない。結構グッとくるところもいくつかある。最後らへんが、ちょっとマンガっぽくてご都合主義な気がするが、全体のノリを考えればこれでOKなのだろう。

普通ならまず手にとることのない本だったが、面白かった。やはりたまには外から風を入れねばだめだな。持つべきものは波長の合う読書仲間、ということか。