スパマーを追いかけろ スパムメールビジネスの裏側

スパマーを追いかけろ ―スパムメールビジネスの裏側

スパマーを追いかけろ ―スパムメールビジネスの裏側

ソフトウェア技術者御用達のオライリーから刊行された本でありながら、技術書ではない。これはスパマーと、彼らを追いつめてスパムメールを根絶しようと奮闘するアンチ・スパマーとの5年間におよぶ闘いを綴ったドキュメンタリーである。

いやはや、まさかオライリーがこんな面白い本を出すとは!もちろん、技術書としては非常に優れた本をいくつも刊行していて、俺も何か勉強しようと思ったら、まずはオライリーの本を探すぐらいに気に入っている。しかし、この本のように単なる読み物として楽しめるものは無かったのではないか?

スパマーがどのように行動し、収益を上げているのかがよくわかる。もっとも、すべて推測できる範囲内であって、特別驚愕するようなアクロバティックなシステムを作り上げているわけではない。結局彼らのやっていることは、ほぼDMをばらまくのと変わらないわけで。

面白いのは、そういうシステム的なところではなく、スパマーという人種がどんな奴らなのか、という点が見える点である。スパマーといっても、置かれている境遇や思想、スパマーになるに至るいきさつがいろいろある。この本だけで7人のスパマーが紹介されるのだが、バラエティに富んで、飽きない。

そして、彼らに対抗するアンチ・スパマー達が魅力的だ。彼らはニュースグループを活用して情報をやりとりし、チームを組んで戦うことが多い。スパマーの個人情報を仕入れて、攻撃用Webサイト作ってさらしたり、スパマーのサイトにDOS攻撃かけたりと大人げない報復攻撃もするが、ブラックリストの構築に、スパム対策の動きが鈍いプロバイダにプレッシャーかけたり、スパマーと癒着して金を受け取っている(!)プロバイダを吊し上げたりと、役に立つこともたくさん実施して成果を上げている。また、AOLのインスタントメッセンジャーを使って、スパマーと対話することまでやっている。どこかから金がでるわけでもないのに、よくぞそこまでやる。よほど怒りが深いのか、それともスパムメール根絶に達成感や充実感を感じているのか。

海外のこうしたドキュメンタリーを読んで常々思うのは、あちらの人々のユーモアセンスである。アンチ・スパマー達のやりとり、そしてそこから生まれるスラングはなかなかヒネリが効いていて面白い。攻撃用のWebサイトも、ただただ罵詈雑言を書き連ねるのではなく、何かしら面白い画像やメッセージを作って載せる。魅力的なハッカー文化もこういった土壌があるから生まれたのだろうか。日本人にはなかなかマネできないよなぁ。

以上、読みやすくて面白い本でした。オライリーには今後もこの手の本を出してもらいたいね。