断絶への航海

断絶への航海 (ハヤカワ文庫SF)

断絶への航海 (ハヤカワ文庫SF)

第三次世界大戦の傷も癒えぬ地球。人類は、闘争に明け暮れる世界から自分達の種を逃がすべく、地球外に新天地を求めて移民船「クァン・イン」を出航させた。そのクァン・インが、アルファ・ケンタウリ系にて植民に適した惑星を発見、植民を開始したとの通信が地球に入った。"ケイロン"と名付けられたこの新天地を地球の属領にすべく、「メイフラワー2世」号で20年にわたる旅を終えてケイロンに到着した地球人達が見たもの、それは地球文明からすればあまりに異質な、しかしすばらしく優れた理想郷であった・・・。

J.P.ホーガン「断絶への航海」読了。
だいぶ昔に出た本のようだが、新装版が出ていたので読んでみることにした。J.P.ホーガンの著書では「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」「巨人達の星」、いわゆる「巨人3部作」を読んだのだが、これが面白かったので、今作も非常に期待しつつ読んだ。

ケイロン人たちは、電子的に記録された遺伝情報をもとに人工的に創造され、その教育はロボットにより行われている。そのため、本来なら両親から、というより文明そのものから受け継いでしまう、地球の従来の価値観や固定観念、偏見から解放されている。また、教育ロボットにより「自分で考えること」を徹底的に叩き込まれているため、下手な詭弁やまやかしに惑わされること無く、透徹した論理で思考し、主体性をもって行動できる。

そんな、地球人類がかかえる過去のしがらみ全てから解放され、自分で考えることを知っている人々が文明を作ったらすばらしいものになった、という今の地球人類を貶めるブラックユーモアじみた内容となっているが、そこはSF作品、無政府で、なんでもタダで、人々が組織等に依存せず本当の自分を持っているといった普通に考えればありえねー世界を、説得力のある論理展開で本当にありえそうに書いてある。

ケイロン人は考えることができる。これが素晴らしいのである。「考える」という行為が人類を万物の霊長まで押し上げたことは疑いないが、現実でこれができている人は少ない。IBMはかつて「Think(考えろ)」というスローガンを社内に掲げていたが、逆にいえばそこまでしないと自分で考えることができないのが今の人間である。だから、単純な論理トリックや詭弁に踊らされてしまう。

この「考える人々の集まりである」という点が俺にとっての「理想郷」と一致することもあり、読んでいて「すげー!こんなところで人生送りたい!」と興奮してしまう有様であった。あとがきで山本弘も書いていたが、地球から布教にきた神父を、ケイロン人の少年少女が理論的にやりこめてしまうところの痛快さときたらどうだ!

今の地球を、ケイロンのような文化形態に持って行くことはまず無理だと思う。劇中でも、地球から遠く離れていて、人間の教育なんて高度な活動をこなすロボットが実用レベルに入っていて・・・というとんでもない前提条件をおいて、この文明をやっと成立させているのである。でも、この本におけるケイロン人たちの言動には、現実に照らし合わせてもたくさん学べる点があると思う。これは面白いだけでなく、勉強になる本だ。