ライフサイクル イノベーション

ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション
ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション栗原 潔

翔泳社 2006-05-16
売り上げランキング : 8199

おすすめ平均 star
starこれからも大切にしたい本
star淘汰とは絶滅ばかりを言わない
star難しい本ですがよく分析してある。

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永遠にイノベーションを続けるということは単なる熱意の問題ではなく、入念な計画によるということだ。それは戦略ではない。生き残りのための大前提である。

慣性力に負けることなく、永遠にイノベーションを続けていくにはどうしたらよいのか?企業活動のライフサイクルを子細に分析し、イノベーションに構造を与える良書。会社の先輩が読んでいた本書を借りてさわりだけ読んだら夢中になってしまって、ついつい自分でも買ってしまった。
昨年読んだ『イノベーションの神話』では、イノベーションが一部の選ばれた人間に与えられる天啓ではなく、地道な取り組みの果てに生まれる成果であることを学んだ。これに加えて本書によって、イノベーションが分析・管理できる対象であることが理解できた(と思う)。

本書が提供するのは、ビジネスアーキテクチャイノベーションフレームワーク、そして慣性力への対処方法である。

ビジネスアーキテクチャは、イノベーションを起こす対象である企業および市場の性質を構造化したものである。大きく"コンプレックス・システム型"と、"ボリューム・オペレーション型"に分けられ、それぞれ取るべき戦略が異なる。

イノベーションフレームワークは、企業のライフサイクルの各段階において実施可能なイノベーションを整理・分類したものである。最近ビジネスパーソンに人気の勝間和代氏も著書『効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法』でフレームワークの重要性を説いていたが、これによって「なんだかすげー変化を起こすことらしい」という漠然としたイメージに整然とした形が与えられる。

慣性力とは、既存のやり方をそのまま続けようとする勢いである。イノベーションを起こすためにはこれに巧みに対処しなければならない。政治的要因も多分に絡んでくる大変繊細な問題であるが、避けて通れない。

これらにより、単に「イノベーションを起こしたい」という漠然とした思考をより整理し、実現に向けて管理することができるようになる。自社に当てはまるのはどちらのビジネスアーキテクチャか、そしてどのようなイノベーションが自分の会社に最適なのか?という判断を下せるようになるのだ。そして、本書は「永遠にイノベーションを続ける」ことをテーマとしているから、一つのイノベーションを成し遂げるに止まらず、続けてその慣性力の中どのように次のイノベーションを行うかという指南もしてくれる。

本書を読むことで、イノベーションを起こす対象、およびイノベーションの起こし方、その両方が実にクリアになった。それにより、まだ遠いところにある気がしていた"イノベーション"が、現実味を帯びて目の前に現れた感じがした。対象への理解が少ないほど、妙な神秘性と疎遠さを感じてしまうものなのである。

もっとも、イノベーションの種類というのが10種を超えるうえ、それぞれの名前と中身も簡単ではない。さらにアーキテクチャによってやることが変わる。一度通読しただけではおそらく頭に入りきらない。何度も読み返して、理解を深めていく必要があるだろう。俺も通読しつつ何度か後戻りして読み直してはいるが、まだ理解が不十分な感じがしている。

読み物といった感じではなく、むしろ企業経営の教科書のような本書であるが、内容は実に興味深く、時間をかけて読んでみるだけの価値が十分にあると思う。