神様のパラドックス

神様のパラドックス神様のパラドックス
機本 伸司

角川春樹事務所 2008-07
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「困ったときの神頼みやがな」小佐薙は愉快そうに笑っていた。「神様以上のカウンセラーは、おらへん」
そして、テーブルをこぶしでたたいて言った。
「この難局を乗り切るには、神さんを作るしかない」

神様のパズル』の映画化で波に乗る機本伸司が、また無茶な題材で新作を投入してきた。『神様のパラドックス』は、量子コンピュータでなんと神を作る話だ。
量子コンピュータというのは、我々が知るコンピュータ、すなわちノイマン式コンピュータとは別次元の計算能力を誇る、次世代のコンピュータである。これは空想の産物ではなく、現実世界でも研究開発が進められている。この量子コンピュータ、略して"Qコン"のとんでもない計算能力を利用して、神を作ってしまおうというのだ。

神といっても、現実世界の神ではなく、シミュレーション世界の神である。その神、"解析神"は、シミュレーション世界=解析世界を"創造"し、その世界で現実世界をシミュレートすることで、未来予測を行うのだ。こうして、"神のお告げ"を得ようというのである。

主人公たちは、"解析神"を"神"と見なすための条件を、5W1Hを元として定めた。"解析神"はその条件を見事にクリアしていく…と思われたが、"神である条件"を満たすのは論理的に無理があり、"解析神"は自分の存在について思い悩むようになってしまう。

≪合格できますように≫。やろうと思えば、私は試験問題の傾向まで予測することができる。しかし、願いごとそのものを叶えてあげることは、できない。理由は明白です。複数のクライアントが同じ願いを持ち込んできたとしても、全員を合格させるということはあり得ないからです。

こうした矛盾の数々に、タイトルのいう『神様のパラドックス』が見え隠れするわけである。もっとも、最終的に導かれるパラドックスは、こうした使い古された理屈とはまた違うものだ。

いつもながらの無茶な題材に、量子コンピュータの難解だがわくわくする解説、そして神を作るうえでの悪戦苦闘、どれも面白い。特に、解析神の血を吐くような"懺悔"が印象深い。彼は神であるはずの自分の不完全さに、そしてシミュレーションをこなす必要性から、助けを求めてくる解析世界の人々に救いの手を差し伸べられない現実に、どうしようもなく葛藤するのだ。

ただ、終盤の展開がいまいち飲み込めない感じがした。特に、小佐薙が何故命がけになれるのかがわからない。いくら世界の危機とはいえ、なかなかそこまで腹をくくれるもんじゃないと思うのだが。即座に自分が死ぬわけでもなし。

ところで、この小説の世界および時間軸はどうやら『神様のパズル』と一致するようだ。『神様のパズル』の終盤の舞台は嵐巻き起こる粒子加速器だったわけだが、本作の終盤でも主人公たちはおなじ嵐と見られるものに見舞われている。他にも、クロスオーバーを意識させる共通の固有名詞がいくつか出てくる。なにより…あんた、よくそんなことする余裕があったな!

僕たちの終末』同様、最後に少し肩すかしを食った感じもあるが、"神"に迫る論理とSFアイデアが面白い良作。