阪急電車

阪急電車

阪急電車

片道15分の短い鉄道、阪急電車から始まる人間模様を描いた小説。著者は、こっぱずかしい恋愛小説を得意とする有川浩。現在は来春アニメ化される『図書館戦争』シリーズの著者として有名か。

電車は、人数分の人生を乗せて、どこまでもは続かない線路を走っていく――

俺も毎日電車で通勤しているわけだが、たまにふと、「この電車に乗ってる見知らぬ他人である人々も、俺と同じように人生重ねてきてるんだよなぁ」などと思ったりする。その感覚がそのまま活字になった感じがする。

電車という乗り物は、老若男女問わず多くの人々が利用する。会社勤めのサラリーマンもいれば、学生もいるし、孫を連れたお年寄りもいる。そんな立場も生き方も異なるまったくの赤の他人同士が、たまたま乗り合わせた電車で、少しだけふれあい―軽く話すだけだったり、他人同士のおしゃべりを聞くとは無しに聞いているだけだったり―、それをきっかけとして人生を緩やかに変えていく。

恋愛が始まる話もあれば、終わる話もあり、おばさま社会の政治の話もありと、バラエティに富んだ人間ドラマの数々。それぞれ単独でも面白いのに、加えてゆるやかにリンクした構成の妙を味わえる。

この構成は、あれだ、上遠野浩平ブギーポップは笑わない』に似ている。まったく関係のない他人同士がふとしたことで少しずつ影響を与えあって、その影響がまた違う他人同士に影響を与えて・・・というかすかな連鎖が続いていって、最終的に一つの物語になるという。

もちろん、これは有川浩が書いた本である。こっぱずかしい恋愛描写もそこかしこで存在を主張しているから、期待している人は安心してよい。

圭一は口をへの字にして美帆を睨み、人差し指で軽く美帆の額を弾いた。
「いたっ!何で!?」
おでこを押さえる美帆から圭一はわざと目を逸らした。
外で、無造作に、――思わず抱き締めたくなるようなこと言うからだよ。

ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁす!!?きたよこれ!なにが「抱き締めたくなる」だ!!いろんな意味で吹きそうになるから勘弁してください、まじで!!