運は数学にまかせなさい
運は数学にまかせなさい―確率・統計に学ぶ処世術 | |
中村 義作 柴田 裕之 早川書房 2007-07-20 売り上げランキング : 62073 おすすめ平均 数式を出さないだけで、内容は高度 数学オンチの心に届く なぜカジノは潰れないのか? Amazonで詳しく見る by G-Tools |
実に有意義な本である。が、松浦晋也氏による優れた書評*1がすでにあるので、あまり書くことがなくて困る。
本書は我々にランダム性に対する冷静さを与えてくれる。
去年は散々だった。車上荒らしにあうわ、彼女から別れ話を切り出されるわ、PCのHDDが吹っ飛ぶわ、歯の詰め物が取れるわ。*2幸運を使い切ってしまったのか、それとも悪霊にでも取り憑かれたか・・・いいえ。それはポアソン・クランピングの現れにすぎない。ランダムな事象が、なんの因果関係も無くたまたま同じ箇所に集まって発生するのは普通である。
2000年、フランスで起きた殺人事件の件数は1051件なのに対し、リトアニアの場合は370件だった。フランスは殺人事件が多い!恐ろしい国だ!・・・いいえ。リトアニアよりフランスの人口の方がずっと多いから、件数だけを比較しても意味がない。比率で見ると、殺人事件の発生率はリトアニアのほうがずっと高いのだ。
2003年に猛威を振るったSARSのせいで、トロントに訪れる旅行者が激減した。SARSは死に至ることもある恐ろしい感染症だから、これを避けて旅行をキャンセルするのは当然・・・いいえ。実はSARSによる死亡率は普通のインフルエンザによるそれと変わりなかった。SARSを恐れて旅行を拒むならば、インフルエンザが流行している時期は一歩も出歩けないことになる。これは確率ではなく印象で考えてしまい、問題を過大に扱いすぎているのである。
・・・こうした身近な例を多数挙げることで、我々にランダム性の正しい捉え方と付き合い方を教えてくれる。
ランダム性をよく理解しないでいると、そこにありもしない運命や驚異を感じて、過剰な反応を取ってしまう。評価の誤りが対応の誤りを呼び、不利益を被ることもある。しかし、ランダム性に確率という姿を与え、これを検証することができれば、むやみに踊らされること無く、もっと冷静に偶然と向き合うことができる。
たぶん、確率・統計を大雑把に知りたいのであれば、統計を志す者のバイブルといわれる『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門 (ブルーバックス)』のほうが良い。この本で学べることの多くがすでに書かれている。ブルーバックスなので本も小さくページ数も少ない、そしてなにより価格も安い。ただ、この本は刊行が1968年とかなり古く、扱われているデータに実感が湧きにくい。その点、本書は最近の事例を多数取り上げている分、飲み込みやすいかもしれない。