ローバー、火星を駆ける

ローバー、火星を駆ける―僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢

ローバー、火星を駆ける―僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢

2003年、2台のローバーが火星に向かって飛び立った。"オポチュニティ"、"スピリット"と名づけられた2台は無事火星の地表に着陸、貴重な観測データを地球に届けている。

このミッションの研究代表者である著者が、苦難に満ちた開発過程を綴ったのが、この本、『ローバー、火星を駆ける』である。

実に重い内容だ。

ただでさえ困難で手間のかかる惑星探査ミッションに加え、国家の威信を背負うプレッシャー、そして相手が自然現象であるため絶対に延期できないスケジュール、苦しい状況だ。それなのに問題は多発、時間も予算も無情に失われていく。ジリジリと追い詰められる開発スタッフ。まさに不可能ミッションと思われ、NASA内部でもこのミッションを取り潰して損害を抑えるべきではないか、という意見が再三出てくる…あぁ、結果を知っていても胃にくる!

それでも彼らは成し遂げた。2台ものローバーを火星に送り込み、これらは初期に想定した耐用期間を遥かに超えて稼動し続けている。重くて重くて仕方が無い開発の物語の後だからこそ得られる、極上の爽快感。火星の映像が初めて届いたときの感動ときたら!

しかし、このミッションは、おそらく世界でもっとも充実した環境が与えられるNASAおよびJPLで実施されているのだ。才能あふれるスタッフが集まり、莫大な予算を使い、それでもこれだけ苦戦する、それが宇宙ミッションだ。

これに対して、我らがJAXAが使える予算は、NASAに比べれば雀の涙…。それで探査機を飛ばせるのだから大したものだ。

脱線した。ともかく、重いが熱い極上のドキュメンタリー。火星という近くて遠い惑星に賭けた人々の生き様を見よ。