神は妄想である 宗教との決別

神は妄想である―宗教との決別
神は妄想である―宗教との決別垂水 雄二

早川書房 2007-05-25
売り上げランキング : 8410

おすすめ平均 star
starこの本の価値は?
star日本人にはあまり危機感のない話なので、肩の力を抜いて読もう
star論争めいた部分のみに注目してはもったいない―美しく謙虚な人間賛歌―

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ずっとドーキンスのターン!!

我らがドーキンス先生がかましてくれた!生物学の権威として、自然科学の徒として、宗教家たちが振りかざす論理(と本人達が思っているもの)をズバズバ切って捨てていく様は最高に痛快!この本は、まさに我々無神論者の剣だ!
「第2章 神がいるという仮説」の冒頭なんか、すごいよ。

旧約聖書』の神は、おそらくまちがいなく、あらゆるフィクションのなかでもっとも不愉快な登場人物である。嫉妬深くて、そのことを自慢にしている。けちくさく、不当で、容赦のない支配魔。執念深く、血に飢え、民族浄化をおこなった人間。女嫌い、ホモ嫌い、人種差別主義者、幼児殺し、大量虐殺者、実子殺し、悪疫を引き起こし、誇大妄想で、サドマゾ趣味で、気まぐれな悪さをするいじめっ子だ。

ここまで容赦なくコキ下ろした文を読むのは、フレデリック・ブラウン『火星人ゴーホーム』の火星人の説明文以来だ。日本ならまだしも、キリスト教の影響が大きな欧米社会において、よくもここまで険を含む評価を。ドーキンスが宗教に対して抱いている危機感と憤り、そしてこれだけのことを書かせるだけの覚悟がありありと感じ取れる。

それゆえ、この本では宗教に対する歩み寄りは微塵も無く、容赦もない。彼の、宗教およびその派生物に対する「害悪」「グロテスク」「知性の堕落」「怠慢と敗北主義」等々の評価は微塵も揺るがない。宗教を弁護すべく宗教家が持ち出してくる理屈も片っ端から論破していく。

この世の生き物は自然発生するには複雑すぎる。だから、神の奇跡により作られたのだ。
ノー。
神の存在は証明できないが、不在もまた証明できない。ならば、存在確率は半々だ。
ノー。
無神論者には善悪の基準とする教えが無い。よって、モラルを持ちようがない。
ノー。
宗教と科学は異なる問題を扱っている(だから科学で否定しても意味がない)。
ノー。
進化論だけ教えるのはバランスを欠く。創造論/IDも学校で教えるべきだ。
ノー。
宗教が嘘っぱちであるとしても、その教えによって幸福でいられるならば、やはり宗教は良いものなのでは?
ノー。

ドーキンスが何を持って「ノー。」と断言しているのか気になる人は、是非買って読んでいただきたい。

ただ、宗教によって引き起こされる悲劇については、結構極端な例を引用してきているようなので、注意も必要。イスラム教徒の皆が皆テロリスト候補生なわけではないし、カトリック司教全員が子供を虐待していたわけでもなかろう。変な色眼鏡をかけないように。

この本を読むべきは、なにかしらの信仰を持っている人なのだろう。しかし、そういう人は読まないだろうし、読んだとしても考えを変えないだろうな。この本が攻撃的すぎることもあるが、柔らかくしたところでおそらくダメだ。信仰が強い人ほど、どれだけ矛盾を突き付けても、「それでも神ならなんとかよろしくやっている」「とにかく自分は神を信じている」といった子供の駄々で返してくるから手に負えない。せっかく我々が手にした剣も、反証不可能性というコンニャクは切れないわけだ・・・。

そうなると、信仰と論理のはざまで揺れている人向けなのかもしれない。論理や理性は宗教に疑問を抱いているが、幼少より繰り返し教え込まれた神なるものへの畏れは強く脱しがたい・・・そんな人に与えられる、宗教の枷を切って捨てるための切り札なのか。

余談だが、この本で『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』に言及していたので、久々にDVDを引っ張り出して見直してみたんだが・・・すげぇ面白いな、これ!欧米における宗教の立ち位置について理解したうえで見ると、これまでになく可笑しさがこみ上げてくる!ドーキンスおすすめの『すべての精子聖なるかな』が、改めて聴いてみると秀逸すぎる。

はやく『ライフ・オブ・ブライアン』DVD化してくれよー!!