ΑΩ

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)
ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)小林 泰三

角川書店 2004-03
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starラノベみたいだった
starウルトラマンの正体?
star長いけど

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小林泰三『ΑΩ 超空想科学怪奇譚』読了。あー、面白かった!空想科学で怪奇ってなんだ?と思うだろうが、いやまったく、そうとしか言いようがない。
地球人・諸星隼人は、飛行機の墜落事故に遭い一度死亡するが、その肉片と死臭のさなかから奇跡の復活を遂げる。その奇跡は、地球外知性体の完全な自己都合から得たものだった。

宇宙に生きる電磁場とプラズマからなる生命体"ガ"は、彼ら"一族"の存続をおびやかす"影"を滅ぼす使命を受け、"影"を追う中で地球に降下する。しかし、運悪くそこにはこの星の知性体が作った飛行機械が飛んでおり、これを墜落させてしまう。"影"も見失ってしまった。

高温のプラズマであるガは、低温の地球上では生きられない。そこで彼は、自らの体を相転移させつつ、自分が殺してしまった現地生命の死体に宿り、これを蘇生した。そう、諸星隼人の死体である。こうして蘇った諸星隼人がまったく知らぬ間に、ガとの共生が始まってしまった。

そしてある晩、ついにガは"影"を発見する。眠ったままの諸星隼人の体を操り、彼の体を急速に戦闘形態に作り替えたガは、4mの巨体を踊らせ雄叫びをあげるのだ。

「ジュワッ!」
ぶはははははははははは!!

序章でドロドロのスプラッタホラーやって、第一章でバリバリのハードSFを展開しておきながら、次は「ジュワッ!」に「ヘアッ!」ですか!銀色の巨人ですか!なんだ、この落差は。事前知識があっても笑えるわい!

そんなわけで、スプラッタホラーでハードSFで特撮ヒーローで、とあらゆる要素をごちゃまぜにした長編である。芸の幅が広い小林泰三ならではの作品と言ってよいのではないだろうか。

この物語では、ウル…もとい、銀色の巨人がどういう設定のもとであったら存在しえるのか、という考察に挑戦している。なぜ巨大化するのか?なぜ巨大化した自分の重さを支えきれるのか?なぜ白銀の体なのか?なぜ3分間しか戦えないのか?なぜ生身の体からビームを撃てるのか?そうしたたくさんの疑問にそれっぽい回答を与えていくのだ。いや、ほんとにもっともらしい。

ガと"影"の闘いを始め、"影"の影響が絡む描写ではスプラッターなグロい描写目白押しなので、そういうのが苦手な人にはお勧めできない。しかし、ちゃんとヒーローものやれてると思う。戦闘のダメージと無茶な変身のダメージの蓄積でボロボロになりながらも、自分の妻を救うべく闘う隼人にはヒーローを名乗る資格がある。悲壮感が足りない気がするが、このくらい淡々としていないと読んでいて気分が滅入ってくるかもしれない。エンディングもあんなだし…。

小林泰三の入門書としてはお勧めできない。が、二冊目か三冊目として読めば、きっとハマる。ホラーが嫌いじゃなければ。

ところで…"一族"の「渦動破壊者」と「電話消毒係」はやっぱりSFネタかね?この二つはわかるんだけど、「城壁測量士」「旅券鑑定人」あたりはどうなんだろう?