ブラッドタイプ

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松岡圭祐『ブラッドタイプ』読了。日本最大の迷信にして疑似科学の代表格である血液型性格分類の幻想を打ち破るべく奮闘する、3人の臨床心理士の物語。

血液型性格分類のブーム再来に伴い、偏見や差別が助長され社会問題となってきている日本。白血病を患ったある女性が、骨髄移植を拒否するという事件がおきる。

「B型になるぐらいなら、死んだほうがマシよ!」
骨髄移植により血液型がB型になり、「自分勝手」で「無責任」な人間に変わってしまうことが怖いのだ。彼女の命を救うためには、血液型性格分類が迷信にすぎないことを証明してみせねばならない。しかし、日本の文化に浸透し強力な錯覚を引き起こすこの迷信を打破するのは、奇跡に等しい行いであった…。

そんなストーリーで、著者のこれまでの著作における主人公3人が勢ぞろいし、この難問に命がけで立ち向かうのである。もっとも、おれはまだその3作品を読んでないけれど。

多少漫画的なところがある。特に主人公の一人である岬美由紀は、才色兼備を体言するかのような人物で、正直うそ臭い。終盤の大立ち回りなんかもう…。

が、気になったのはそのくらい。約500ページのハードカバーだがグイグイ引きこまれてあっという間に読み終わってしまった。全体としては熱い、そして幾分怖い話となっている。

何が怖いって、人が血液型性格分類を信じてしまうメカニズムがリアルに描写される点が、だ。そう、血液型性格分類は「錯覚」なのだ。錯覚というのはどうしても生じてしまう。知的に訓練した人も、その錯覚を受けたうえで正しい知識による補正をかけているにすぎない。もし訓練していない人であれば、受け入れてしまっても仕方が無い。だから恐ろしい。そのことを登場人物の心理描写を交えて克明に書き出している。

血液型性格分類ってやつは本当に根深い。疑似科学も数あれど、こいつほど強力なやつは類を見ないと思う。マイナスイオンに科学的根拠が無いことは理解できても、血液型で性格は決まらないことはどうにも受け入れられない、そんな人を俺はたくさん知っている。そういう人々こそ読んで欲しい本だ。この物語の最後に使われる証明は、小説内の絵空事ではなく、現実世界で検証して同様の結果が得られており、十分な説得力を持っているのだ。